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「弓親さん、いますか?」

コンコンとノックをされ、久しぶりに彼女の声が聞こえてきた。だいぶ待たされたおかげで、お腹が空いた。阿散井の行動の遅さに腹が立つ。

「わざわざ来てもらってごめんね。忙しかった?」

扉を開けて幸実ちゃんを出迎える。久々に顔を合わせるが、相変わらずの美しさだった。しかし、元気の無い表情をしていた。

「いえ、友達とご飯食べてて…遅くなりました。すみません」
「僕の方こそごめん、邪魔しちゃったみたいだね」
「大丈夫です、もう、食べ終わってたので」

じゃあ一緒にご飯どころじゃないじゃないか。それならそうと阿散井も連絡をくれれば待ってる間に何か食べておいたのに。

「それより、その、お話があったんですよね。私も弓親さんとお話したかったので…。どこかお店でも行きますか?それとも、ここで?」
「…それじゃあ、僕晩御飯まだだから、付き合ってもらってもいい?」
「はい、大丈夫です」

幸実ちゃんは緊張でもしているのか、表情が硬い。これも僕のせいか。
何を話していいのか解らず、考えているうちに沈黙が続いてしまい、更に口を開きにくくなる。どうしようかと考えているだけで居酒屋に着いたので、店に入った。


「あの、弓親さん。…避けて、ごめんなさい。弓親さんが元気無いって、恋次くんから聞きました。ごめんなさい、私のせいで」
「……開口一番にそれ? 何? 阿散井の奴そんなこと言ってたの?」
「は、はい」

それじゃあ僕まで、隊の奴らと同じみたいじゃないか。女の子一人に振り回される、美しくない男みたいだ。

「怒ってないから、謝らないで。それより、僕の方こそごめん。恋人でもないのに同じ布団で寝るだなんて軽率だったよ。気分良くなかったよね。本当にごめん。避けられて当然のことを僕はしたんだ」
「…嫌だったから、気分悪かったから、避けたわけじゃないです」
「へ?」
「…ただ、恥ずかしくて。どんな顔して弓親さんに会えばいいのか解らなかったんです。会って、思い出したら、照れちゃうから」

そう言う幸実ちゃんの頬は赤く染まっていた。

「ごめんなさい、もう落ち着いたと思ったんですけど…」

顔が熱いのか、ぱたぱたと手で扇いだ。
なんだ、嫌われたわけじゃなかったんだ。それが解ると妙に嬉しくて、心が軽くなった。

「可愛いね」
「…からかってます? 仕方ないじゃないですか、私、男の人にあんなにくっつくの初めてだったんですからね…」
「そうなの?その割には、君からもすり寄ってきたりしたんだけど」
「そ、そうなんですか!?ごめんなさい!!」
「別に、構わないけど」

慌てる幸実ちゃんが可愛くて、ついからかいたくなってしまう。ただの女の子を相手するのが、こんなに楽しく感じるなんて。僕はどうしてしまったんだろう。

「また…これからも、十一番隊のところまで遊びに来てくれないかい?寂しがってるよ、みんなも」
「…弓親さんも、ですか?」
「…そうだね。僕も、寂しいよ」

君にだけは、本音を言いたくなってしまう。本当はそんな弱気なこと、誰にだって言いたくないのに。

「なら、また行きますね。でも、一つ守ってほしいんですけど、からかわれるとすぐ照れちゃうので、変なことしたり言ったりしないでくださいね」
「変なこと? 可愛いね、とか?」
「そうです!!」

幸実ちゃんは顔を赤くさせて怒った。怒った顔も可愛いよ、なんて言ったら更に怒られちゃうかな。

「わかってるなら言わないでください!弓親さん意地悪です」
「意地悪してるつもりはないんだけどね」

ふざけてないと言えないなんて、僕はまだ臆病者だ。嫌われたくなくて、離れてほしくなくて、大事なことは言えないなんて。

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