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忙しいと言われた手前、幸実ちゃんに連絡するのも億劫で、そのまま夜になってしまった。力になれない自分の無力さに煩わしさを感じながら、何もできない僕はもう寝てしまおうと思って寝転んでいた。
しかしその眠気を飛ばすように、扉がノックされた。こんな時間に来るのなんて、どうせ一角が酒に付き合えとか言いに来たのかなと思って、ちょっと面倒だったけど扉を開けに行った。
「あれ、幸実ちゃん。どうしたの?」
「…言ったじゃないですか。弓親さんに会いに来る、って」
たしかに昨日そう言った。でもまさか、個人的に会いに来るって意味だったなんて。
「もう、おやすみになるところだったんですか?」
「いいや、まだのんびりしてただけさ。入るかい?」
「…はい」
寝てしまわなくてよかった。
幸実ちゃんを部屋に招き入れ、座布団に座らせた。
「お茶でもいれようか?」
「いえ、大丈夫です。それより、あの、お話を聞いてもらってもいいですか?」
「いいよ、何でも話して」
そう言うと、幸実ちゃんはうつむき気味で、ぽつぽつと話しはじめた。
「…私の隊の、女の子たちなんですけどね、みんな、きゃぴきゃぴした子たちばかりなんです。それで、前も少し話したと思うんですけど、やっぱりまだ私が十一番隊で男を漁ってるんじゃないかって疑ってるみたいで。勝手にそんなこと言うくせに、十一番隊みたいな野蛮なところの男なんかやめておけって、言ってくるんです」
その子たちの言いたいことはよくわかる。死神なんか大量にいるんだし、わざわざ女心の解らなそうな戦闘馬鹿の十一番隊の男を選ぶ意味がない。
「…でも、十一番隊ってみんないい人ばかりじゃないですか。そりゃあ、しつこくナンパしてくる人もいますけど、弓親さんとか、恋次くんとか、一角さんとか、よくしてくれる人だっていっぱいいます。だから私、十一番隊のこと、好きなんです」
「そう言ってもらえると嬉しいね」
「だから、何も知らない皆に、十一番隊なんか、とか言われるのすごい嫌で。ていうか、彼氏作りに来てる訳でもないのに、勝手にそういう目で見て勝手に悪く言うのすごいむかついて。反論したんですけど…逆効果で…」
純粋に好きだと言ってもらえるのなら、幸実ちゃんを十一番隊に率いれたいくらいだ。きっとうまくやっていける。
「庇うってことは既に十一番隊に彼氏でもできたんじゃないかとか、めちゃくちゃ聞かれて…。ちゃんと否定してたんですけど、最終的には、飢えた十一番隊に飛び込んでちやほやされるのが楽しいの?とか言われるし、その気も無いのに笑顔振り撒くの思わせ振りで迷惑じゃない?とか言われるし…」
酒でも飲んだのかと言いたいくらいの勢いで喋り続ける。よほど鬱憤が堪っていたのか。
「…私、強くなりたいだけなのに、女の子たち、解ってくれないんです」
「その子たちが解ってなくても、僕は解ってるよ。毎日君ががんばる姿も見てるし、負けて悔しがってる姿も見てる。だから君が強くなるためにここに来ていることは理解してるし、全然、迷惑なんかじゃない。僕だけじゃなく、十一番隊の皆だって解ってくれているはずさ」
「…本当に?」
「あぁ。だから、元気出しなよ。みんな君の笑顔が見たいはずだよ。ここにいる時には、誰も幸実ちゃんのことを否定したり適当なこと言ったりしないからさ」
少しでも元気になってくれたのか、幸実ちゃんは少し微笑んだ。ああやっぱり、笑った方が可愛いよ。
「私は、私の信じる道で、正しいと思ったことをすればいいんですよね。やっぱり、人にとやかく言われたって、根拠の無い意見に左右されることなんかないですよね」
「そうそう」
「…ごめんなさい、いちいち悩んで、巻き込んじゃって」
「人は誰だって悩むものさ」
幸実ちゃんが元気を出してくれるなら、それでいい。たとえその相談内容で、僕に特別な感情を抱いていないということが伝わってきたとしてもだ。
十一番隊の皆が、同じように好きだと、そういうことなのだろう。阿散井の話で浮かれたり幸実ちゃんの言葉で喜んだりしていた僕が馬鹿みたいだ。
僕の想いがこんなにも溢れ出しそうなのに、君は今でも、強くなるためだけに十一番隊に通い続けているなんて。不純な気持ちを抱いてしまっている僕は、幸実ちゃんにとって邪魔でしかないじゃないか。
「弓親さんも…何か、悩んでるんですか?」
「え?」
「…たまに、悲しそうな顔するから。私じゃ頼りないかと思いますけど…聞くだけでも、できますから。何かあるなら、言ってほしいです」
幸実ちゃんに心配させてしまうほど、自分の感情を抑えきれていないだなんて思っていなかった。これじゃあ幸実ちゃんを困らせるだけだ。
「…話しても、困らせることになりそうだけど、話してもいいかい?」
「いいですよ。いつもお世話になってるので、少しくらい困らされても構わないですよ」
にこりと笑ってそんなことを言ってくれる。本当に、いいのか。また困って、悩んで、十一番隊に顔を出さなくなるなんてことになったりしたら、もう会えなくなってしまったら。
「君のこと、好きになってしまったなんて言ったら、困るだろ?」
嫌だったら、困ると言ってくれればいい。好きだから付き合ってくれだとか、そこまで言うつもりはない。
「…困ります」
あぁ、そうだろう。だから言いたくなかったんだ。
思った以上に悔しくて、幸実ちゃんの顔も見れやしない。
「そんなの、意識しちゃったら、私どんな顔して十一番隊の特訓に来ればいいんですか。また私、弓親さんの顔見れなくなっちゃいますよ」
それは、恥ずかしいからっていうこと?
ふと幸実ちゃんに視線を戻せば、うつむき気味の顔が赤く染まっているようにも見えた。
「…幸実ちゃん。君が僕をどう思ってるかだけ、聞かせてもらえないかな?」
「…好きです。言わせないでください」
どうも思ってない!なんて言われなくてよかった。好きだと、幸実ちゃんの口から直接聞けてよかった。
「さ、最初は、本当に、強くなるためにここに来てたんです。それは、信じてください。でも、弓親さんに会うたびに、変な気分になってきて…。こんな気持ち、認めちゃったら恥ずかしくて弓親さんに会えないなって思ったから、ずっと黙っていたかったんですけど…」
「認めちゃったね」
「…困りました。私もう、普通の顔して特訓しに行くの無理です」
「普通じゃない顔して来ればいいんじゃない?」
「…こんな赤い顔、弓親さん以外の人に見せられるわけないじゃないですか」
そうだね、そんな可愛い顔、僕以外の奴に見せてたまるか。
「じゃあ僕にだけは、もっとじっくり見せてよ」
「…恥ずかしいから無理です」
「恥ずかしがる君も可愛いよ」
「ゆ、弓親さん」
手の届く距離まで近付いて、幸実ちゃんの頬に触れた。顔を少し上に向かせれば、潤んだ瞳と視線が交わる。
「困らせてごめんね。好きだよ」
「…許さないので、責任とってください」
「うん、大事にするよ」
言葉にすればするほど、胸の内に抑えていた気持ちが溢れ出てくる。こんなにも、人を愛しいと感じるなんて。
「抱き締めてもいい?」
「…ダメって言ったら、しないんですか?」
「しないよ、君の嫌がることなんて」
「…そんなに優しいと、何もできないですよ。私、聞かれたらダメって答えちゃうので」
「それは困るね」
有無を言わせる前にしてしまおう。背中に手を回して優しく抱き締めた。あんなに遠く感じていた彼女が、今僕の腕の中に居てくれる。
「…これじゃあ、隊の子たちに何言われてもしょうがないですね」
「言わせておきなよ。誰が何と言おうと、僕は君を離すつもりはない」
「…私も、離れたくないです」
幸実ちゃんはそっと僕の体に腕を回した。もう他のことなど考えられないくらいに幸実ちゃんで頭がいっぱいになる。それがとてつもなく幸せで、しばらく体を離すことすらできなかった。
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