阿散井に負わされた怪我の療養のためなのか、幸実ちゃんはしばらく十一番隊まで来ることがなかった。
色気のない十一番隊員たちは、せっかく現れたアイドルに会えないせいか、やる気を損なわれていた。

「てめーらやる気ねぇなら帰れ!!何か不満でもあんのか!?」

これには一角が怒鳴り散らした。だが誰かの「幸実ちゃんが来ないから…」という情けない呟きにより、更に一角がご立腹になった。
こんな状態の特訓風景を見ていても何も面白くなく、執務でも片付けようかと思って練習場を出た。

「あ、弓親さん…」

すると扉の外に、噂の幸実ちゃんが突っ立っていた。

「なんだ、来てたなら入ってくればよかったのに」
「いえ…斑目三席が怒鳴ってたので、ちょっと怖くて。お邪魔せずに帰ろうかなって、」
「中まで来てくれた方が助かるよ。みんな幸実ちゃんの姿が見れないせいでへこんでたんだ」
「…私の姿なんか見てどうするんですか」
「目の保養って奴だよ。ここは副隊長以外女の子は居ないからね」

久々に見る幸実ちゃんは、やはり可愛い。こんな子を今の飢えている十一番隊員に見せて大丈夫なのだろうか。

「みんなに顔見せてくかい?」
「あ、いえ。今日はただ、弓親さんに会いに来ただけなので」
「へ?」
「この前、迷惑かけてすみませんでした。それと、運んでくれてありがとうございます。あと、その、お姫様だっこ、されるの初めてで、すごい楽しかったです」

幸実ちゃんは照れながらも笑顔を見せてくれた。こんな表情、他の野蛮な奴らに見せられないな。会えたのが練習場の外でよかった。

「それで、お礼はどうしようかなーって考えたんですけど、」
「お礼なんかいいよ。君が来てくれるだけで僕の目の保養にもなってるわけだし」
「えっ、いや、そんな、私なんて…。あ、でも、お礼もう用意してきちゃったんで、貰ってください」

そう言って幸実ちゃんが差し出してきたのは、手作りのお菓子でも入っていそうな可愛い紙袋だった。

「男の人って何貰ったら嬉しいか解んなくて、京楽隊長に欲しいもの聞いたら手作りのお菓子とか言われたので…、甘いもの…大丈夫でした?」
「大丈夫だよ、ありがとう」
「お口に合わなかったら、誰かにあげても捨てちゃっても、好きにしてくれていいので」
「せっかく僕が貰ったんだから、僕が独り占めするよ」

今から皆の前で見せつけるように食べようかな。甘い匂いだけでも皆にわけてあげよう。

「それじゃ、そろそろ失礼しますね」
「阿散井にも会っていかなくていいのかい?」
「負けた恨みが晴らされてないので、皆の前で憎まれ口叩いちゃいそうなのでやめときます。それに、今日の目的は果たせたから大丈夫です」

幸実ちゃんは本当に僕に会いに来ただけらしく、そのまま帰っていった。
気分もいいし、僕は練習場へとまた入り、腰をおろして紙袋を開けた。

「何だよそれ。食いもんか?」
「あぁ、今幸実ちゃんがくれたんだ」

皆にも聞こえるように少しだけ大きな声で言ってみれば、思った通り視線が集まった。

「差し入れっすか!?」
「そうだよ、僕だけにね。あ、やったぁ、マフィンだ」

紙袋からマフィンを取り出して、皆の視線があるうちにそれを口に含んだ。甘みといい匂いが広がって、思わず笑みが溢れてしまう。
ごめんよみんな、意地悪しちゃって。だからって、わけてあげるつもりは微塵も無いけど。

- 5 -

←前次→