消された記憶
お昼過ぎに九番隊の執務室を訪ねてみれば、予想通り檜佐木さんはそこにいた。今日もかっこいいなぁ、なんて見とれている場合ではない。昨日のことを謝らないと。
「檜佐木さん、あの、昨日のことなんですけど…」
私が口を開けば、檜佐木さんが青ざめたような気がした。そんな顔されるほどの失礼をはたらいたのか?
「き、昨日は、俺が悪かった!ごめん!俺から会いに行こうと思ってたんだが、言葉が見つからなくて…その、ごめん!!」
檜佐木さんは何に対して謝ってるんだろう。記憶が無いことが恨めしい。
「…私も、生意気な口聞いてごめんなさい。酔っちゃってて敬語使えなかったみたいで」
「いや、そんなことはもう気にするな。大丈夫だ。それよりほんと、ごめんな?」
そんなに焦って謝らなければならないようなことを、檜佐木さんは私にしたというのだろうか。もしかして恋次くんが心配していた変なことを、檜佐木さんはしたのだろうか。
「…何に対して謝ってるのか、きちんと言ってくれないと解らないです」
ちょっとだけ不安に思って、檜佐木さんが下手に出ているのをいいことに強気に出てみた。
「…その、さ、触りまくったり…無理矢理、キスしたり…ごめん。まじごめん」
「ぐ…具体的に!!」
「はっ!?え、えっと、いや、俺もうろ覚えなんだけど、」
「うろ覚え!?」
「いや違うぞ!ちゃんと覚えてる!!そうだな、支えるふりして腰触ったり、頭撫で回したり、手とかほっぺとか唇とかめっちゃ触ったよな、ごめん!!おでことか手とかにキスしたけど気持ち悪かったよな!?ごめんな!?」
檜佐木さんが言うならそうなんだろうけど、自分がそれを覚えていないということが腹立たしい。そんなにも檜佐木さんに触れられたというのに、何一つ覚えてないことが悔しすぎる。
「たぶん忘れられねぇとは思うけど、忘れてくれていいから!!ほんとごめん!!」
檜佐木さんも必死に謝ってくるし、忘れろなんて言ってくるし、ちょっと悲しい。きっと、酔ってたからつい手を出してしまっただけなのだろう。だから、無かったことにしたいんだろう。私は覚えていないけど、起床時に感じた幸福は本当に檜佐木さんが原因だったっていうのに。
「…忘れてほしいですか?」
「で、できれば」
「…ごめんなさい。私本当は、昨夜のこと何にも覚えてないんですよ」
「…はい?」
「だから、檜佐木さんの言う通り、無かったことにできますね」
忘れてほしいならちょうどよかった。聞くんじゃなかった。
「それじゃ、失礼します」
記憶を飛ばすほど飲んだ私も悪いんだ。反省するためにも、今日は大人しく引き下がろう。
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