夢の中へ
「なぁ星野、ちょっといいか?」
後日、恋次くんが私の元へとやってきた。
「…お前さ、檜佐木さんのとこにクッキー持っていったことあるか?手作りのやつ」
「ないよ?」
どうして恋次くんが知っているのだろうとは思うが、檜佐木さんに何か聞いたのだろう。しかし私は嘘をついた。あの出来事を、無かったことにするために。
阿近さんの話によると薬が効いていた間の出来事はあまり記憶に残らないようになっているらしい。きれいに忘れるわけではないが、現実だったのか解らなくなる程度になるということだった。
「だよな!やっぱ檜佐木さんの夢か妄想か」
「…何が?」
「えっ、いや、なんでもない!」
「何それ、教えてよ」
「いや、檜佐木さんが星野に手作りクッキー貰ったって言うんだけど、その時のことうろ覚えらしくって夢か現実か解んないとか言っててよ、なさけねぇよな」
どうやら本当に記憶から薄れているらしい。さすが阿近さん。
「じゃ、俺檜佐木さんに夢だって伝えてくるわ。よかったな、檜佐木さんの夢に出てこれて」
あぁよかった。惚れ薬のせいで好きだと言わせてしまったことを、夢だということにできて。
◆
「星野に確かめたんすけど、やっぱクッキーなんか渡してねえって」
「はあぁ?まじかよ、確かに食ったし、すっげぇ嬉しかったんだけどな…」
「夢でそれだけ喜べるなんて幸せな人っすね」
想い人の夢に出られるなんて、星野も幸せなやつだ。早くくっついちまえばいいのに。
「しかもそのあと俺の膝に座ってよぉ、まじで重さも体温も覚えてるぜ?」
「…疲れてるんですか?」
「…疲れてんのかな。や、でも、そのあともなんか…何かあったはずなんだよ。こう、後ろから抱き締めて、色々触りまくって…」
「色々って何すか」
「…覚えてねぇんだよ。でもたしかにこの手で柔らかいものを触ったはずなんだ。何だと思う?やっぱ胸か?」
「知らねぇっすよ、檜佐木さんの夢なんか」
「夢じゃねぇって」
夢じゃないなら星野が檜佐木さんの話されてあんなに冷静でいられるわけがない。夢に違いない。
「それからがまじで…なんで記憶が曖昧なのか解んないんだけど、」
「夢だからでしょう」
「星野の中に指入れた記憶はあんだよ…いや、もしかしたら指じゃないかもしれない」
「なんで俺檜佐木さんの婬夢の話聞かなきゃいけないんすかね」
「だから現実だって!」
「現実ならなんで覚えてないんすか!」
「解らねぇよ!」
ありえない。さすがにヤったってんなら星野の態度が普通すぎる。あれが白馬の王子様とヤったあとのテンションかよ。
「確かに星野の中は温かかったんだ」
「…もうその話星野にしていいっすか?確かめましょうか?」
「やめろ!!夢だったら嫌われるだろ!!」
「だから夢ですって」
「目瞑ってって可愛く言われたことだって覚えてんだよ!」
「あー、もう帰ります。ほんとに嫌われたくないなら星野にその話しない方がいいと思いますよ」
いつまでも檜佐木さんの妄言を聞いていられるほど俺も暇じゃないんだ。
- 7 -
←前・次→