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「あの、家入さんはどちらに…?」

高専内の駐車場に姿を見せたのは五条さんと夏油さんの二人のみだった。今日の任務内容に含まれていたはずの家入さんがいない事に、それとなく尋ねてみれば、夏油さんが「その事なんだけど」と言葉を続けた。

「任務前に用事があるらしくて、先に行っといて、と伝言を。多少遅れたらすみません、とも」
「そう、ですか。分かりました」
「なにそれ、俺聞いてないんだけど」
「聞いてなかったからね」

今日の任務は一級相当の呪霊が窓によって報告されている。場所は都心から少し離れた公園だ。公共の場というのもあり、一般人の通行を制限するのにも限りがあるため、巻き込まれる危険性も0ではない。急な怪我人にも対応できるようにと、反転術式の使える家入さんの同行が命じられていたけれど。急な用事ならばしかたない。幸い場所も電車とタクシーを乗り継げば容易に来れる所ではあるし、問題ないだろう。

もしくは自分が合間を縫って迎えに行ければいいと納得して「では行きましょうか」と車に乗り込んでエンジンをかければ、夏油さんとバックミラー越しに目が合う。何か伝え漏れたことがあったのだろうかと「どうしました?」と声をかける。

「いや、ちょっと硝子の様子が普段と違うようだったから気になってね」
「そうかあ?」
「少しだけどね。それに多分、彼氏に会いに行ってると思うんだけど、最近上手くいってないとも言ってたし」
「あー、一般人のね」
「な、なるほど」

少し驚いた。そうか、彼氏がいるのか。
でもよく考えれば彼女だって華の女子学生だ。殺伐とした呪術師の世界だと忘れそうになるが、これくらいの年齢であれば普通に恋愛をして、付き合っている相手がいておかしくない。家入さんとはまだ顔合わせもしたことはなかったが、私の中で可愛いらしい、等身大の少女というイメージが出来ていく。

「お二人をお送りした後、お迎えに行こうかと思いましたが、彼氏さんとご一緒でしたらやめておいた方がいいですね」
「それなんだけど、よかったら迎えに行ってあげてもらえないですか?」
「?いいんですか?」

予想とは反した夏油さんからの申し出に疑問符が浮かぶ。

「任務なら私達だけでもなんとかなるし、その方が硝子的にも助かるだろうしね。もちろん、瑠川さんがよければだけど」
「問題ありません。お送りした後、お迎えに行ってきますね」
「なら、硝子に今どの辺にいるのか聞いておきますね。迎えを寄越すことも一緒に言っておくので」
「ありがとうございます」

運転で手を離せない私の代わりに、家入さんに聞いてくれるのは非常にたすかる。夏油さんの気遣いに感謝していれば、五条さんが「そういえば」と何かに気づいたように話を切り出した。

「お前硝子に会ったことあるっけ?」
「いえ、まだ一度も。お顔は写真や車の中から見たことあるんですが、どういう方なのかは…」

登録されている高専学生の記録を担当補助監督になってから見たことはある。後は車内から五条さん達と一緒にいるところを見かけたことはあった。茶髪のボブカットに目の下のほくろが印象的な綺麗な女の子。

「一言で言えば、ヤニカス」
「ヤニ、カス?」

ヤニカスとは、私が思い浮かべた用語と同じ意味だろうか。ニコチンを過剰に摂取しようとする、そう、いわばタバコを嗜む。でも確か、タバコを嗜むには彼女の年齢はまだ足りていないはずでは…。

「まあ、間違いじゃないね。硝子はニコチン中毒者だから」
「そう…なんですね」

私の中で想像していた家入さんのイメージがガラリと変わり、ニコチン中毒者の非行少女へとなっていった。