五条さん達二人を現地に送り届け、夏油さんが教えてくれた家入さんの指定場所へと向かう。任務地からそこまで離れていないのでよかった。家入さんの用事が終われば比較的すぐに現地へ向かえる。彼女の用事が終わるまで、どこかに車を停めて、連絡があるまで待っていることに決めた。
都心から少し離れているところなので、今の昼の時間でもパーキングは空いていそうだ。車を時間制のパーキングに停め、指定場所の確認がてらコンビニで五条さんの好きな甘いお菓子でも買っておこうかと辺りを散策してみる。この間、五条さんと任務終わりの深夜のコンビニで、ひたすら甘いものを買っていたのを思い出す。男性では珍しいほどの甘党度合に少し驚いたが、なんでも五条さんの術式の呪力操作はかなり難しいらしく、疲れやすいらしい。だから、その分自然と糖分を欲するようになったそうだ。なので、あれからは五条さんがいつ何時でも糖分を摂取できるように、車に甘いお菓子をストックしている。まだ五条さんに差し上げたことはないが、近いうちに役割を果たすことがあるはずだと信じている。
まだ見たことのない限定のお菓子なんかもあったらいいなとそんな事を考えていれば、どこからか若い男女の口論する声が聞こえてきた。
何だろうか。この辺りはそこまで治安の悪い区域ではないと思っていたが、かなり激しめの男性の声が聞こえてくる。声だけでもかなり激昂している様子が窺える。対する女性の声はまばらで、よくは聞き取れないが、男性とは違い落ち着いているのだろう。
「…まさか、ね」
ふと、夏油さんの言葉が脳内を過ぎる。
彼氏と上手くいっていない、家入さんの様子がいつもと違う。
可能性は0じゃないけれど、ただの痴話喧嘩という線もある。その場合、第三者が入るべきじゃないということは恋愛経験が乏しい私でもわかる。
深く立ち入るべきじゃない。そう思い、歩いてきた道を引き返そうとしたその時、
「ふざけんなよ!!」
「!」
一際大きい怒号が鼓膜を揺らした。
これは普通の痴話喧嘩ではないと思い、声の聞こえた方向へ足を進めた。様子を見て、問題がなさそうなら何もせず戻ればいい。
人気のない路地に入ると、タバコの吸い殻やペットボトルのゴミが散らばっている。どこか陰鬱とした空気を感じ、できれば近づきたくない場所だ。こんなところに家入さんがいるのだろうかと思案するが、近づいて行く度に大きくなる怒声は気のせいではない。
「絶対に別れねえからな!?俺がどれだけお前を!」
別れ話でもしているのだろうか?
会話の内容を察するに、女性に別れを切り出された男が逆上している図かと思われる。念のため、足音をなるべく消してゆっくり近づくようにし、壁際から二人の姿が見えるところまで来た。
「そんなこと言われても、もう会えないから」
やはり、家入さんだ。写真で見た印象とは少し違い、大人びた雰囲気と気怠げな空気を纏っている。
「俺は納得できないって言ってんだよ!!」
「ならどうしたら納得すんの?」
男性の必死な形相に対して、彼女はいかにも困ったように眉を寄せて腕を組み、壁にもたれている。
「俺は知ってんだぞ?お前、他にも男いるんだろ?」
「はあ?」
「見たってやつがいるんだよ!お前が他の男二人侍らせてたって」
「二人?もしかして無駄にデカくて目立つ白髪とお団子の男?」
「やっぱり心当たりあるんだな!?」
「いや、心当たりっていうかそいつらただの同級生だし」
おそらく彼の言っている人物は五条さんと夏油さんの事なのだろう。勘違いしているみたいだけど、彼の勢いは止まりそうにない。
「んなもん誰が信じるんだよ!下手な言い訳しやがって、この尻軽女!」
「あ?人が大人しく聞いてるからって調子に乗んな」
「う、るせえ!悪いのはお前だろうが!!」
我慢もここまでだ、とばかりに低い声を放った家入さんに、たじろいだ男性は一瞬目を泳がせたが、余裕なく声を荒げた後、大きく腕を振りかぶっていた。