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「到着しました、五条さん」
「こってりらーめん龍馬屋…。聞いた事あんな」

今回の任務地である東京都内某所にあるラーメン屋。飲食店やコンビニが連なる一帯の離れにあり、人気が少ないこの場所で、呪いの発生が確認された。
窓の報告によれば、この店で飲食をした客が次々に体調不良を起こし、食中毒事故が疑われたが診断による原因は不明。保健所による調査も行われたが、衛生管理による問題はなかったという。
つい一ヶ月程前までは行列ができる人気店だったらしいが、今では閉店間際まで落ち込んでおり、その原因が呪いによる影響だという報告を受けている。

「ただ単に味が落ちたんじゃねーの?」
「調査に訪れた窓によれば、味にもサービスにも問題はなかったらしいです。ただ、やはりこの店から出ると、身体の不調はあったらしく、間違いなく呪いの関与はあるかと」
「ふーん?」

サングラスのテンプルの部分を摘み、軽くレンズを下にずらすと、五条さんの透き通るような瞳が隙間から映る。彼だけが持つ五条家相伝の"六眼"は、あらゆる呪いを見通すという。歴代でも稀有な才能を、彼はその身にこれでもかと宿らせていた。
その煌めく薄氷を思わずじっと見つめてしまう。まるで無数の星が眩く光っている様だった。

「確かに、呪物っぽいのあるな。多分そこからだろ、発生源」

五条さんがサングラスを元の高さに戻したところで、漸く意識が逸れてしまっていた事に気づき、慌てて彼から視線を離す。どうも今日は朝から集中力が散漫になっている。
どうやら私が無遠慮に見ていた事は五条さんは気づいていなかったようで、よかったと心の中で胸を撫で下ろした。

「お店の営業開始時刻が11時からなので、それまでに終わらせて欲しい、との要望があるそうです。さっそく中に入りましょうか」
「そんな時間から開けてもどうせ客は来ねぇんだろ」
「そうだとしても、開けておきたいんでしょう」


お店の中は開店前という事もあるが、がらんとした雰囲気だった。ラーメン屋特有の活気は無く、奥に佇んでいる店主でさえ、エネルギーを失っている様だった。

「緒方さん、お邪魔しております。呪術高専の者です。オーナーの川中さんから連絡があったかと思いますが、これより呪いの原因を確認するため、お店の中を拝見させてもらいますね」
「ん?あ、ああ…好きにどうぞ」
「失礼します」

私と五条さんが店内に立ち入ると、頭の端から爪先まで、忙しい動きをする目でじっと見られていた。でもそれも、こういった民間に関わる任務があれば珍しい事ではない。非術師の彼らからすれば、呪いが本当に存在するかどうかも不明なのだ。それを突然、ここには呪いがあるから祓いますと言われても、懐疑の目を送らずにはいられないだろう。

客席、厨房、トイレ、裏口。このラーメン屋の敷地内は既に派遣されていた二級術師がくまなく調査していた。それでもなお、呪物の発見や残穢の根源を確認出来ず、"六眼"の持ち主である五条さんにこの件が回されることになった。その経緯を五条さんに伝えると、見るからに怪訝な顔で眉を寄せていたので、私の言葉足らずだったろうかと「五条さんにしかこなせない任務ということですね」と一言つけると、「めんどくせぇな」と零して顰めていた顔を緩めた。

「あ…あの…、この店が呪われてるって本当なんですか…?以前もあなた達と似た様な格好した人達がやって来ましたけど、結局見つからなかったとか言って何も変わらなかったですし…。オーナーは間違いないから任せとけって言ってきましたけど、正直あんまり信じられないと言うか…」
「緒方さんの懸念も勿論分かります。お時間は取らせません。我々が調査に訪れるのも、今回を最後にしますので」

返答を聞いてもなお曇り続ける店主の表情に、私の背後に立っていた五条さんから「はあ〜〜ぁ」とわざとらしい大きなため息が聞こえた。

「半端なヤツよこすから一般人になめられんだよ」
「五条さん」
「呪物ならもう見つかってる。そこのレジ、開けてみろ」
「え」

五条さんが指差すレジカウンターに回り込み、視線を店主に向け「お願いします」と促す。未だ困惑した表情で、私と五条さんの顔を交互に見比べてから渋々といった様子でレジを開けた。引き出しの中には束ねられた札とコインケースに入っている小銭の束。そして質素なクリアケースが入っていた。

「このケースの中には何が?」
「こ、この中には使用済みのクーポン券とか商品券を保存してるんです。これといって変わった物は何も…」
「貸せよ」
「ああっ」

攫うように店主の手の中からクリアケースを奪うと、「ほらな」と五条さんはニヤッと口角を上げ、ケースから何かを取り出した。年季の入った質感で色褪せているが、薄紫色のアサガオの刺繍が入ったお守り。機械で作られたというより、手作り感のあるそれは、私が見るだけではとても呪物には思えなかった。

「これが呪物、ですか?」
「そ。別に呪霊を誘き寄せるほどの呪力は篭ってねぇけど、条件を満たせば人をどーこーしちまうくらいの呪いは発生する代物」
「緒方さん、これは?何故この中にお守りを?」

呆気に取られた様子で、五条さんが摘んでいるお守りを見つめている店主に問いかける。緊張と怯えの混じった目は、ゆらゆらと揺れていた。

「そ、それは…最近別れた彼女から貰ったもので…捨てるのを忘れてそのまま入れてただけで。で、でもそれが呪物、って…!」
「多分その元カノが呪いの元凶だな。おおかたこの店で"ラーメンを食った人間が金をこの店に払う"までの一連の流れをした人間への呪い。こんだけ限定されれば、素人でも相当な"縛り"になる。死人は出なくても、体くらいは壊すだろうな」
「そん、な…なんで!なんでアイツがそんな事…!」
「知らねーよ、理由なんて。よっぽどアンタが恨まれるようなことしたんだろ」

五条さんの言葉を聞き、店主の顔周りには脂汗が滲みだした。目には恐怖の光が広がり、僅かに後ずさりをした。

「まあなんにせよ、アンタの元カノ、素質あるよ。呪詛師のな」