深刻なまでの呪術師の人手不足による皺寄せは、学生であろうと、優秀な呪術師であればあるほど流れやすい。
その一角である彼は、私が担当してここ一週間の間で、どれだけの任務をこなして来ただろうか。常人ではとてもじゃないが成し得ない。そんな明瞭とした呪術師としての差を、この日々で痛いほどに感じていた。
「お疲れ様でした」
「…おー」
街の燈がなくなった静寂の中、月明かりに照らされ、芸術品のように美しく光る白髪が視界に入る。その日予定していた任務を全て難なく終えた五条さんに、終了の意を込めて声をかける。横を通り過ぎながら素っ気なくもそれに応えた五条さんは「腹減った」と自身の空腹を訴えた。
「今日は午前中からずっと稼働しっぱなしですからね。分かりました、24時間営業のコンビニに寄ってから寮までお送りします」
今日一日のスケジュールを思い返し、移動により夕食の時間を取れていなかった事に申し訳ない気持ちを覚える。
細身といえど彼は成長期真っ只中の男子学生だ。それに呪霊を祓うのもきっと体力を使うだろう。何か軽く食べれる物でも事前に買っておけばよかった。そこまで気が回らなかった詰めの甘さに、これからは常備食を何か置いておこうと心の中で決める。
「コンビニかよ。何か他に開いてる店とかねぇの?」
「他、ですか…。ファストフード店とかでしたら開いてる店舗もあるかもしれませんが…」
とっくに寝静まった深夜の中、開店中の飲食店など限られている。五条さんがどんな物を求めているか分からないが、思い当たる選択肢はそれくらいだ。
「マッ◯とか?今はそういうのじゃねぇんだよな…」
「そうですか…。となると、後は…」
黎明の時刻が来るにはまだ早い廃墟の前で二人、飲食店を探す為に頭を悩ませていると、ぐぅ、と可愛らしい音が響いた。
思わず目の前の彼に視線を合わせれば、「…んだよ」とバツの悪そうな顔が僅かに赤らんで見えた。
「ああ〜、もういいわ!さっさと帰って寝た方が早ぇ!車出せ!」
「あ、え」
足早に車内へ乗り込んで行ってしまった彼に、慌てて追いかけて運転席へつく。バックミラー越しに様子を窺えば、サングラスで隠れて瞳は見えないが、ぎろりと睨まれた気がした。
「早く出せよ」
「は、はい」
本当にいいのだろうか。
脳内でその言葉が過ぎったが、当人が「いい」と言っているのだから、変に食い下がらない方がいいだろう。指示通りに車を発進させ、帰路に着く事にした。