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寮に併設されている食堂では、常駐している非術師の寮母が食事を準備する。任務で食事の時間が不定期になりがちな学生達にも、申告していれば作り置きをしてくれる。ありがたいサービスだ。
事前に申告を済ませ、用意されていた食事を受け取り、五条は寝起きで乱れた頭を掻きながら、蕎麦を啜る夏油の正面の席についた。

「げー、朝から蕎麦かよ」
「うるさいな。そもそも、もう昼だよ」

難癖をつける五条に一度視線を送ってから、テーブルに置かれたトレーに目をやる。人の食事をとやかくいえるようなものではないメニューに、今度は夏油が顔を顰める。

「寝起きでよくそんな甘いもの食べれるな」
「あ?普通だろ?」

メープルがたっぷりかかったホットケーキをナイフで切り分け、大口を開けて頬張る。げんなりとした表情で眺めていた夏油に、わざとらしく「うめぇー」と言い放つ。見せつけられようと羨ましくもなんとも思わない夏油は、肩をすくめた後「そういえば」と話題を切り替えた。

「昨日の夜中、何度も電話かけてきてたみたいだけど、何か用でもあったのかい?」
「おー、それな!てか、やっぱお前無視してたろ?」
「してないよ。マナーモードにしてたから気付かなかっただけさ」
「はあ?俺の大ピンチのSOSだったらどうすんだよ!?」
「なる事あるのかい?」
「ねぇな」

得意げに鼻を鳴らす五条に、やはり大した用事ではなかったのだなと会話の流れで目星をつける。マナーモードにしてたのは事実だが、枕元に置いていたのでバイブ音で目覚めてはいた。送られてきたメールに目を通し、「おい!起きろ!」や「今から俺の部屋集合!」などと、真夜中の深夜に送ってくる内容ではなかったので無視をした。よっぽど大事であれば、部屋に押しかけて来るなりするだろう、と再び眠りに落ちた。あの時取った選択は、正解だったと言えるだろう。

「お前に文句があんだよ」と鋭い目つきで凄む五条の手にはホットケーキが刺さったフォーク。凄まれてもなにも迫力は感じない。

「文句?」
「お前言ったよな?瑠川にシカトされてる気、じゃなくてされてるんだろって」
「あー、言ったかな?」
「言ったんだよ!」

ダン!とフォークを握ったままの手でテーブルを叩く。
確か数日前、二人での任務があった日。悟とそんな話をしていた覚えもある。だが、それも普段のやりとりでの会話の延長のもので、本人がそこまで気にしているものとは思わなかった。何か注意したとしてもいつも、話半分で流してそこで終わりだったから。

「そんで昨日、聞いたら違ぇつってたぞ!お前のせいで変な誤解してたっつーの」
「え、聞いたの?本人に?」
「うん」
「へぇ」

直接本人に聞くような内容ではないだろうとは思ったが、今まで出会ってきた人間の中で、デリカシーのなさで言えばこの男の右に出る者はいない。それくらい当然か、と納得して相槌を打つ。

「この間初めて顔合わせた時も、緊張して目が合わせられなかっただけらしいぜ。あの態度で!」
「そうなのかい?そんな風には見えなかったけど」
「表情筋が硬いんだと」
「表情筋?」
「表情に感情が出にくいってさ。それであのすまし顔なんだぜ?うけるよな」

「くくく」とそのまま瑠川との話を愉快げに語る姿は、まるで新しいおもちゃを見つけた時の子供のようだ。この場にいない瑠川を思い、夏油はやれやれと首を横に振った。

「そんでさ、あいつ今まで生きてきて菓子もろくに食ったことねーって言うから、今度スッ〇イマン食わせてみようと思ってよ。どんな顔すると思う?やっぱ無表情なんかな?」
「仲良くなれたみたいでなによりだよ」

そう言い残して自身のトレーを片付けに行く夏油に「あれ、今日お前任務入ってたっけ?」と首を傾げた。

「急遽ね。でも近場だし、確認されてる呪霊も低級が二体だからすぐに終わるよ」
「ふーん。ちゃっちゃと終わらせてこいよー」

特に気にかける様子もなく手をひらひらと振って送り出す。夏油ならば低級呪霊に手こずるような実力ではない事は、これまで任務を共にこなしてきた時間で分かっている。夏油もそれに答えるように背中を向けながら片手を振って返した。