13.5


暁は瀬那を自宅へ送り届けたあと、ルブランに二階にある自室へと帰宅した。ベッドに腰を下ろし鞄のチャックを開けると、中から不機嫌そうな声でモルガナが顔を出す。

「訊きたいことは訊けたのか?」

鞄から暁の隣へと脱出し、背伸びをして毛づくろいを始めた。無理やり入れられたため毛並みが乱れてしまったようだ。

「……いや」

「ワガハイを無理やり押し込めておいて、何をやっているんだオマエは」

「とても訊けるような感じじゃなかった」

「セナ……彼女は大丈夫なのか?」

「それは、どういう意味で」

「彼女は既に怪盗団としての内情を知りすぎている、疑いたくはないがワガハイたちはセナのことを知らな過ぎる。それにセナはどうにも不安定だ」

「……そうだな、俺は彼女のこと、何も知らない」

暁は眼鏡が外し、ベッドにその身を沈めた。
明智のように共に過ごした年数があるわけでもない、彼女の年齢を知ったのもつい最近だ。あんなに親し気に名前で呼ぶことも未だにできないでいる。かといって杏のように質問攻めにする勇気もなかった。余計なことを考えずに行えるのは同性のなす技なのか、羨ましさがある。
まだ寝るには早すぎる時間だが、人混みにもまれて疲労感が蓄積されていた。

「怪盗団の中ではオマエが一番近い位置にいる、変な行動をしないかついでに見張っておけよ」

「ついでってなんのだ」

「アケチって探偵に情報漏洩していないかどうかだ。オマエ、セナのこと気になるんだろ?そのついでだ。まあ今のところそんな素振りはなさそうだし、うまいこと協力してもらおうぜ」

彼女は暁がこちらへ来て初めて知り合った人間だ。泣いているかと思うほどに小さく蹲っていた。初対面がそうだったから、どうにも心配になってしまう。気になるのはそういう理由だった。それなのに、モルガナはにやにやと人の悪い顔で暁を見ている。その視線と外光を遮るために腕で目元を覆った。

「おい、ジョーカー、寝るな!まだ話は終わってないぞ!」

モルガナが暁の腕を叩いて起きるよう促すが、反応はない。しばらくにゃあにゃあ言っていたが諦めたのか、たくっ!、と呟くとモルガナも暁の横で丸くなった。
気になるかならないかと問われれば、前者で間違いはない。だが、モルガナが考えているようなものではなかった。自分は現在、保護観察中……所謂前科者だ。もし、そのような感情があったとしても迷惑なだけ。彼女は友達だ。そう、ただの友達。
困ったように微笑む顔も、何かを恐れている節目がちな顔も、触れたときの戸惑いの顔も、全て気になるのは友達だから。
そう結論付けると、暁は瞳を閉じた。そこにひとつの危惧を感じながら。
(2018/9/7)

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