押してもダメなら引いてみろ、相手も大喜びだ





何故私に聞くのだろう…。
目の前にいる相手からせめて視線だけでも逃れるように、カミュは目を閉じた。

最初こそシャカが己のもとを訪れたことに珍しさを感じていたカミュだったが、目的を聞くやそんな感想など一気に吹き飛んだ。
シャカがカミュのもとを尋ねて来た理由。
簡潔に、何故エナガに避けられるのか、である。
それこそ知ったことかで済む話なのだが、滅多にないシャカの相談事。
己に聞くほど切羽詰まっているのかもしれないと考え直し、カミュは再び目を開く。


「心当たりはないのか?」
「ない」
「……そうか」


きっぱりと言い放たれてはそれ以上何も言えない。
とはいえこのまま沈黙に徹するわけにもいかず、カミュは思案した。


「聞くがこのことを他の者たちに相談したのか?」
「したにはした。…が、どうも解せない点だらけなのだ」
「どういう点が解せないのだ?」
「皆一様に同じことを言うのだよ。『押しすぎだ。引け』と。引いたところで相手が常に引き気味では想いなど伝わらないではないか」


嫌な予感がカミュを襲う。
これはひょっとしたらひょっとするのではないだろうか。

何故私にまで尋ねにくるのだ……。
改めてカミュはそう思った。

人間関係の、それも色恋沙汰。
どうみても機微に富んだ適任者は他にたくさんいるではないか。
いや、むしろその適任者にさえ匙を投げられたのだろう。
カミュはますます頭を悩ませた。


「総じて言われるのならば、それなりの理由があるはずだ。一体彼らに何を話したのだ?」
「さして変わったことでもない。普通に話しかけ、普通に傍にいただけだ。時には相談にも乗ってやったのだが」
「………」


お前の普通は当てにならない。
声を大にして言いたかったが、カミュはぐっと堪えた。

とりあえず内容を聞こう。
話はそれからだ。


「では聞くが、具体的にはどのような相談に乗ったのだ?」


聞きたいような、聞きたくないような。
複雑な思いを抱きつつ、カミュは問うた。


「怖くて一人で風呂に入れないと言っていた時は付き合ってやろうと言ったまでだ」
「―――――!?」


出だしからしてとんでもなかった。
「何だと!!」と、危うく声を荒らげてしまいそうになるのを、カミュは今回もまた必死に堪えた。
クールになれとなるんだ、と、片手で額を押さえて己に言い聞かせつつ、改めて目の前にいる問題児に視線を向ける。
カミュの無言の視線を察したのか、シャカはシャカで一考した後口を開いた。


「言って置くが、浴槽まで入ってはいないぞ」
「当たり前だ。一体何を考えたいるのだ…」
「君が勝手にあらぬ誤解したのだろう?」
「この場合、流れからすれば誤解されても致し方ないと思わないのか?」
「では言い方を変えよう。風呂にこそ入れないが、浴室でいてやることくらいはできるということを言ったのだ」
「……それもどうかと思うが」
「そうか。本人は逡巡していたようだが」
「そもそも何故彼女は怯えて風呂に一人で入れなかったのだ?よもやお前が入れない状況にしたとは言わんだろうな」
「全く失礼な物言いだな。ムウも大概だったが、カミュまでこうとは…」


成程、ムウが匙を投げるわけだ。
下手をしたら神仏でさえ逃げ出したかもしれない。
感心している場合ではないのだが、最早どうにでもなれという諦念がカミュの脳裏に過ぎっているため、ある意味現実逃避の思考に近い。
とりあえず、例に漏れず己も(シャカにとって)まっとうな助言はできそうにないことだけは身に染みて分かった。

分かったところで言うべき言葉は決まっている。


「シャカ、わたしからも言おう。押しても駄目ならば引くことだ。きっと彼女も大いに喜ぶだろう」






(完)

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【投げやりアドバイス5題】
・押してもダメなら引いてみろ、相手も大喜びだ
配布元:確かに恋だった

とりあえず、夢の格納先(相手)は、夢主に矢印向けている相手のところに格納しています。
相談された相手は…まあとばっちり要員=被害者(酷い)ということで。
2015/1


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