3:働かざる者食うべからず
ごり押しの末衣食住の権利を獲得したエナガはその対価として呂蒙のもとで働くことになった………のだが。
「……終わらない」
頭を抱えそうぼやきながらも手と目だけは休めることなく事務的にその仕事を果たしている。
そうでなければ机一杯に積み上げられた仕事を今日中になど片付けられそうにないのだ。
事務的な作業は嫌いではないエナガだが、流石にここまでくると逃げ出したい衝動に駆られてきたというのは言うまでもない。
しかし生活のためそれは出来なかった。
今エナガがしていること。
それは彼女の世界でいうと所謂お役所仕事だった。
ずらりと山のように積まれた竹簡は国防に関する重要機密文書でこそないが財政や行政に関わる文書であり、エナガはその整理ないし誤字修正などを行っている。
官吏とほぼ同等の仕事に、女の身では何かと風当たりが悪いとのことで衣服は男の官吏のそれと同じものを身に着け、世間で言う所の男装をしていた。
(それにしても、私なんかがこんな手伝いやっちゃっていいのかな)
衣食住を無償で賄ってもらうつもりなどなかったエナガは、当初家事か雑用といった無難な仕事をするつもりだった。
肉体労働は性格上好みではないが、事務作業を行うにはこの国の文字が読めないという致命的欠点のため仕方がないと腹を括っていたのだ。
だが、幸か不幸かその最大の欠点という問題はあっけなくなくなった。
つまり、読み書きが出来たというわけである。
言葉が通じるのなら出来るだろうと呂蒙が読み書きのレベルを調べたところ、不思議なことにエナガは書かれた文章を土が水を吸収するようにあっさりと理解できたのだ。
同様に書くという行為もまた難なくクリアすることが出来、これにはエナガも自分で自分が信じられなかった。
いくら漢文は読めるといっても所詮漢文は漢文で、送り点なしの原文が読めるわけでもない。
なのに何故自分は読みどころか書きも当たり前のように出来るのか。
考えれば考えるほど浮かびあがってくる疑問に、そういうこともあるのだと最終的にその思考を強制終了させることで解決した。
(呂蒙さんも人がいいというか…大丈夫なのかなぁ)
本人に言おうものならそれをお前が言うのかとさぞかし呆気にとられることだろう。
しかしそれくらい思うほどのことを自分はやっている。
本当にいいのかと頭の片隅で疑問に思いながらも、今日のノルマを達成するべくエナガは一人せっせと与えられた仕事に勤しむのであった。
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