6:知人以上友人未満?



馬鹿正直にもほどがある。


陸遜に連れられ無事呂蒙のもとに戻ったエナガに投げかけられた第一声は呆れ顔と同時に返ってきた。


「で、でも、呂蒙さんの知っている人なら別に悪い人じゃないと思って」

「お前は少し自分の置かれた状況を理解した方がいいぞ。俺が知っているからと言って誰もが善人だという保証はないだろう?」

「そ、それは……そうですね。あ、でも陸遜さんは良い人ですよ」

「…あのな」


目の前で一方的に繰り広げられる論争(というよりも単なる親子の間における説教に近い)に、完全に第三者的存在と化した陸遜はどうしたものかと内心苦笑するも、二人の会話を聞くにつけ先程告げられたエナガの言葉が絵空事ではないことを実感した。


「それはそうと、すまなかったな。陸遜」

「いいえ。私もエナガ殿とは一度会って話をしてみたかったので」

「ああ、それなら今後も構ってやってくれ」

「あの、それってかなり子供扱いじゃないですか?!」


いくらなんでもそれはどうなんだ。

学生とはいえ小中学生並の扱いに避難の声を上げるエナガ。
その反応こそ大人げないことは十分承知であるが、それでも抗議したくなるほど呂蒙の対応は親兄弟のそれだった。

軽く凹みかけるエナガに対し、陸遜は嫌な顔一つすることなく呂蒙の半ば冗談とも言える頼みに応じた。
これでは益々どちらが年上なのか分からない。
だが、これ以上の文句はそれこそ大人げないというもの。
胸にたまったありったけの不満をなんとか押し込めると、エナガは改めて陸遜を見た。


「改めて今日は迎えにきてくれてありがとう。えっと、本当冗談じゃなくてこれからも陸遜さんの時間があればまたお話しませんか?」

「はい、私でよければ」

「よかった」

「あのな…」


目の前で展開するある意味気恥ずかしい会話に居た堪れなくなる呂蒙だが、ここでふとあることに気がついた。


「そう言えばエナガ。なんでまた陸遜は“さん”なのだ?」


かれこれ一週間も生活を共にしてくると相手の性格も分かるというもので、呂蒙もまたエナガの凡その人柄を把握しつつある。
彼女の性格上同年代、もしくは年下には“さん”は使わない。
その者の地位相応の敬いはすると考えられるが、先の様子からすると彼女は陸遜が自分の知り合いである以上のことは知らないらしい。
故に彼女の陸遜に対する敬称が気になったわけなのだが…。


「あっ、もしかして私かなり無礼な態度でしたか?」


当のエナガ自身は然程意識してのことではなかったのか、呂蒙の問いを別の意味で解釈したようで、自身の失態に蒼白していた。
無礼云々という問題ならそもそも呂蒙に対してもかなりの無礼千万もののゴリ押しをしたということになる。

やはりどこか抜けている。

ややピントのずれたこの異世界の住人に頭を抱えたくなるものの、幸い陸遜の存在により極度の頭痛までは免れた。


「構いませんよ。エナガ殿の好きなように呼んでください」

「いや、でもそれはそれで悪い気がするような…」

「お前らなあ…」


これ以上自分を無視して歯痒い会話はやめてくれとばかりの呂蒙の思いは悲しいかなエナガには届いていなかった。
幸い陸遜には気づかれたようでこの話はすぐに切り替えられたわけなのだが。


「時にエナガ殿はいつも何をしているのですか?」

「へ?」

「何だ、まだ言っていないのか」

「あ、うん、…まあ、そうです、ね」

「あの、何か問題でもあるのですか?」

「問題というわけでも……いや、問題なのかなこれは」

「…まあ、そうかもしれんがな」


何故こうも二人は気まずそうにするのだろう。
歯切れの悪い物言いの二人に今度は陸遜が疎外感を覚えることになった。


「と、とにかくお互い時間が取れ次第また会うってのは?」

「え、ええ。それは構いませんが…」

「ならまた今度。…私がまともな顔の時に」


未だ泣きじゃくった跡がくっきりと残っていることを思い出したエナガはそう言うと顔を洗うべくそそくさと部屋を後にした。


「呂蒙殿、エナガ殿は一体……」

「………いずれ分かることだ。だからあまり気にしないでやってくれ」


ならば今話してくれても問題ないのではと思う陸遜だったが、呂蒙の言うとおり彼がこの一風変わった来訪者と日の下で再び出会うことになるのはそう遠くない日のことであった。





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