七:興味本位


先日思う存分泣きじゃくったのが功を成したのか、目に感じる腫れぼったさに反してエナガの気持ちはすっきりとしていた。


「なんか良い事あったわけ?」

「あ、凌統様。申し訳ありません」


無意識の内に気が緩んでいたのか顔に出ていたらしい。

折角呂蒙に頼み込んで与えてもらった仕事だ。
怠けるわけにはいかない。

両頬をぴしゃりと叩くと再度凌統に謝罪の意を示す。


「そんなに畏まんなくたっていいっての」

「しかし」

「いいからいいから。…っと、これを渡せばいいんだろ?」

「はい。確かに承りました」

「そういえばさ」

「……?」


渡された竹簡を受け取ると部屋を後にしようとするエナガを引き留めたのは部屋の主である凌統だった。


「呂蒙さんのとこに居候してる“女”ってあんただろ?」

「え?!」


自分で言うのも切ないが、城内に住まう同年代の女官と比較してもいろいろと幼い外見であるため、髪を結い官吏の服装を着れば多少なりとも女とばれない自信はあった。
それなのに目の前の武人には易々と見抜かれてしまいその驚きと同時に受け取った竹簡をどさりと床に落としてしまった。


「あんた、本当に顔に出やすいんだな」

「…まさかはったり、ですか?」

「いいや」

「…そうですか」


危うく脱力しかけたところで散乱した竹簡の存在に気づき、慌てて広い始めるエナガを手伝いながら凌統はふと思っていることを口にした。


「で、何でそんな恰好をしてるわけ?」

「それは…この方が仕事をする上で不都合が生じないからです」

「へえ…。俺は別にそうは思わないけどね」

「それって、やはり男装しなくても女には見えないってこと?」

「なんつーか…それ自分で言ってて悲しくない?」

「…言わないで。自分が一番解ってるから」

「なあ、話し方、素に戻ってるんだけど」

「――っ?!も、申し訳ございません!なんと言いますか、雰囲気的に素でも良いようなノリになってしまい…。公私を弁えずとんだご無礼をっ。ああっ、本当に失礼致しました!お許しください!」


竹簡を全て拾いあげるも項垂れていたエナガだが、その一言を聞くなりはっと顔を上げると、息もつかずに一気に喋りたてた。

成程、これはからかい甲斐がある。
わたわたと必死になって謝り倒しながらもどこかずれた物言い。
少なくとも普通の女官や官吏には見られない言動である。

突如呂蒙のもとに居ついた女。
酒の肴に何ともなく呂蒙に身元を尋ねてみたところ、愛人というわけでもなくただの居候かと思いきや、実は官吏として働いているという。

今まで見たこともない相手に凌統の関心が湧く。


「いいって。そんな無理して畏まらなくても。自然体で俺は構わないから」

「いや、それはどうかと」


尻込みするエナガを余所に凌統はなんなら呂蒙と同じようなノリで気軽に接しろとまるで自分と呂蒙のやりとりをその場で見ていたかのように言いだしたではないか。


「な、何故それを……」

「ああ、この前一緒に酒を飲んでた時にいろいろと聞いたってわけ」

「い、いろいろというと?」

「そんな青くなるような話はしてないから安心しなって」

(出来るわけないでしょーが!)


気にするなと言われても気にならないわけがない。
とはいえそれすらも顔に出していたらしく、またも苦笑される破目になった。

何だかんだで学生特有の甘えを改めて自覚させられて情けなく感じつつも、エナガは自分の好きなように接していいという凌統の有難い申し出を受け入れた。




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