奪い取った献上品


その日、ノースブルーの新星トラファルガー・ロー率いるハートの海賊団に新たな罪科と莫大な懸賞金がかかった。
天竜人への献上品を強奪した事件は当然ながら紙面を賑わせたが、奪われたものが何であるかを報じることはおろか、襲われたのがヒューマンショップであったことさえ記事には載らなかった。


ニュース・クーから買い取った新聞を一瞥して、すぐに放り捨てたローは何事も無かったかのように帽子を被り直して寝る姿勢に入る。
若干シワの入った新聞を溜息混じりに拾うと、ペンギン帽の男は苦言を呈した。

「キャプテン…自分が読んで終わったからって、適当に投げるのやめてください」
「うるせェ。おれに命令するな」
「まったくもう…ん…?」

命令ではなく共同生活のマナーの話をしているのに、と肩を落としたペンギンの耳に、カタカタと金属を揺する音が聞こえて振り向く。
見れば、船内から甲板へ出るための扉のハンドルが微妙に震えていて、彼は無意識に追加の溜息を吐いた。
チラリと目をやれば、モコモコ帽子のつばの下で片目を開いたローが左手を持ち上げていた。

「シャンブルス」
「わっ…!」

リング状のハンドルを握っていた姿勢のまま現れた少女の代わりに、ペンギンの手に掴んでいた筈の新聞が消えた。
だから、自分が興味を失くしたからといって貴重な情報源を粗末にするな。
ローが真っ先に新聞を読む度に繰り返している文句を脳内だけに押し留め、よろけた少女を支えてやる。

「大丈夫か?ティア」
「大、丈夫…ビックリ、しただけ」

ティア。件の強奪してきた献上品だった、少女に与えられた名前だ。由来は、あのヒューマンショップがあった島の名前をそのまま使うことをローが決めたから。
クルー唯一の女であるイッカクから借りたツナギでさえ手足を折り返さないと転んでしまうほど、ガリガリの彼女をハートの仲間たちは然程抵抗なく受け入れていた。

船長の気まぐれは初めてのことではないし、放置が死に直結しそうな少女を冷遇する者がいない、気の良い面々でもあった。

「…私、何と入れ替えてもらったの?」

あまりにも痩せ過ぎていたため、日常生活でも不自由があるティアにとって、潜水艦の防水扉を開けるのはハードな筋トレに近い。
大体が、通りかかったクルーが開けてやるなり、今のようにローの能力で解決されている。

「ーーティア、来い」
「ア、アイアイ、キャプテン」

事件を報じる新聞のことを知らせたくない想いでもあるというのか。
新聞だ、と答え掛けたペンギンを遮って少女を呼びつけたローに従い、彼女はトタトタと寝転ぶ青年の側へ駆け寄っていく。

温暖な気候の海域ならではの、日光浴はティアのリハビリの一環でもある。
主治医兼所有者となったローが付き添うのなら、この場にペンギンの仕事はない。どうにも振り回されていると思いつつ、彼は重い扉を開けて船内へと戻っていった。

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