リハビリ
身体的なダメージの回復に合わせて始まった、ティアの精神面へのリハビリは実に多様だ。
ある時はベポとのんびり魚釣りに励んでみたり、ペンギンに習って一般的な学業を教わったり。気まぐれにローが教鞭を執ることもあるが、彼の性格のせいで【意地悪に嫌と言えるか】の訓練と化すので学習としてはあまり進まなかった。
今日もまた新たなリハビリとして呼び出された食堂へ赴くと、コックであるバンドウと絶賛おやつタイムのベポ、そしてローがいた。
「…あの、リハビリだって、聞きました…」
「ーー来たか」
バンドウに呼ばれたのに、何故かローが仕切るようでチラリと目線だけで隣に座るよう指示された。
それでも、ハートの海賊団にとっては絶対の船長命令である。ティアは素直に腰を下ろした。
同じく目線で合図を受けたバンドウが、心得たとばかりにカウンターから運んできた皿を少女の前に置く。
ベポが頬張っている、クリームの添えられたパンケーキだった。
「……え、と…?」
「食え」
「食ってみな。ベポも食ってる」
ほい、と渡されたナイフとフォークを反射的に受け取り、戸惑っていたティアだったが、2人がそれ以上何を説明してくれる様子もないと察するとおずおずと食べ始めた。
「………美味いか?」
「…は、はい……とても、甘くて、美味しい、です…」
「寄越せ」
唐突に、口を開けて催促するローに更に戸惑うが、ティアは基本的に逆らうということを知らない。
船に来て教わった通り、きちんとナイフを使って切り分けた一欠片を彼の口へと運んだ。
「……甘ェ…」
だから甘いと報告したのに。
最近やっと戸惑いと無表情以外を覚えたティアの顔に、ぎこちないながら【呆れ】が広がる。
良い傾向だ。
ローは負けず劣らずの無表情でそう考えながら、再度バンドウへ合図を出す。
少し表情を硬くした彼は、頷くと、もう一皿カウンターに用意されていたパンケーキを運んできた。
ことり。食べさしの皿の横に置かれた、新しい皿を見て、ティアの顔がまた戸惑いに戻る。
そんな様子など御構いなしのローが、再び食え、と命じた。
「あ、それベポのとは違う味な」
「……はい…」
暫し、食器を使う音だけが響く。
何度か口に入れ、咀嚼する様子を眺めていたローが無言で口を開けた。
すぐに、学習したことを発揮すべくティアがフォークを差し出す。
躊躇なく頬張ったパンケーキを飲み込み、どことなく不安そうに見つめる少女を見据えたままローは言った。
「ーー味が、しねェ…」
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