アンジェについて来て、アンジェの借りている宿の部屋へとやってきたティキとロードだったが、部屋に着くなりアンジェが電話をしに廊下に出ていってしまった為、部屋にはティキとロードの2人のみが残されてしまっていた。
そこで、ティキはマトモな返答は帰ってこないだろうなと予想しながらも、ロードに問うてみたのである。
「なあ、ロードさんロードさん。結局のところ、アンジェって何者なわけ?」
「ん〜?」
ティキの問いは妥当である。
ノアでもAKUMAでもないのに、ノアや伯爵と懇意にしている、黒の教団所属のエクソシスト。それも、エクソシスト元帥という地位につく女、アンジェ・マリアン。
聞くところによると、彼女の兄であるクロス・マリアンという男も黒の教団に所属し、エクソシスト元帥をしているという。
そんな彼女が何故、我々ノア側と懇意にしているのか。
ティキとしてはそれらの事柄が気にならないわけがなかった。
「アンジェが何者か・・・ねぇ〜」
ロードはティキの問いを受け、ニヤニヤと含みのある笑みを浮かべていた。
「だって、おかしいだろ・・・・あいつ、エクソシスト元帥なんだろ。普通に考えたら、W壊すW対象だろうし」
「まぁね〜、確かにW今はWそうなんだけどぉ」
「・・・・W今はW?」
含みのあるロードの言い方に、当然ティキは引っかかる。
引っ掛かりを覚え聞き返してきたティキに、ロードは答えようか答えまいか考えるように「ん〜」と意味をなさない声を上げると、漸く口を開いて話し始めた。
「アンジェはぁ〜、僕らノアにとって絶対になくてはならない、た〜いせつ存在なんだぁ」
「大切な・・・存在・・・・」
もっと具体的に説明が欲しかったところだが、これ以上は話してくれないだろうと察したティキは、とりあえず自分たちノアにとってアンジェは欠かせない大切な人間であるということを頭にインプットする。
理由を聞かずとも、ロードが何となく含みのある言い方をしているだけで、きっとそれだけの何かがアンジェにあるのだろうとティキは考えたのだ。
というか、ティキはそれを聞いて理解は出来ずとも、すんなりと受け入れ納得出来てしまった自分に驚いていた。それはどこか、自分の中にあるノアの血が、勝手に納得しているかのようで―――。
そこまで考えた時、ふとティキは顔を上げ、ニヤニヤと笑って自分を見つめるロードへと視線を向けた。
「なん、」
「もしかしてティッキーってば、アンジェのこと気になるのぉ?」
「へっ、なっ!?」
「やっぱり、そうなんだぁ〜!」
的確にティキの気持ちを見透かしたロードは、心底楽しそうにゲラゲラと笑い転げた。
ティキはといえば、図星を突かれ、焦り複雑そうな表情を浮かべていた。
しかし、一頻り笑い転げたロードは、ティキが焦る必要もないくらい、軽々と嬉しそうに言ってのける。
「なら、ティッキー頑張ってぇ。僕らは応援するからさぁ」
「お、応援・・・・って、いいのかよ・・・?」
「だって、ティッキーがアンジェを落とせれば、アンジェは今にも教団を捨てて僕らの方に来てくれるかもしれないしぃ〜」
思ってもみなかったロードからの背中を押す言葉に戸惑ったティキだったが、ロードの真意を聞いて首を傾げる。
「・・・・・・それくらいで動くやつには見えねえんだけど?」
「どうだろうねえ・・・・でも」
「でも?」
「アンジェは、ノアと一緒にいるべきなんだよぉ。それが、アンジェの本来在るべき姿だからねぇ」
「本来在るべき姿ねえ」
「そう・・・・間違っても、教団なんかに奪われちゃいけないのぉ」
「・・・・ますます、アンジェの正体が気になるんだけど。マジで何者、アンジェって」
いよいよ、ロードの言葉によってティキはアンジェについて分からなくなる。
けれど、ロードはそれ以上詳しく教える気は無いようで、笑ってティキを見つめるばかり。
そして、これ以上は尋ねても無駄だと悟ったティキは話を聞くことは諦め、廊下に出てしまったアンジェを追うべく部屋を出ようとした。すると、ロードは「あ、でもぉ」と口開き話し始める。
「本気でアンジェを落とす気なら、アンジェの闇には気をつけてねぇ」
「アンジェの闇・・・・?」
「そぉだよぉ〜。アンジェには、深〜くて、真っ黒〜い大きな闇があるんだよぉ。下手に突っついたら、気に入られてるティッキーでも嫌われちゃうかもぉ〜」
「・・・・・・・え、まず俺って気に入られてたの?」
意味深なロードの言葉より、最後の方の『気に入られてる』の言葉に反応したティキは、思わず身体ごと振り返りロードに詳しく聞こうとした。
しかし、振り返った時には既にロードは自身の能力で出現させた扉のなかに足を踏み入れており、後ろ手でティキに手を振っていた。
「じゃあ、頑張ってねぇ、ティッキぃ〜」
「あっ、おい待てよ、ロード!」
呼び止めるティキの声も無視してロードは扉の中に消えていき、やがて扉は閉まり、扉そのものが部屋から消えてしまう。
そうして、ティキは沢山の疑問を残されたまま、ひとりアンジェの部屋に残されてしまった。
「アンジェの闇ってなんだよ・・・・てか、俺、割と脈アリな感じなのか・・・・?」
ティキの独り言に勿論返事なんて返ってこない。
返ってこない返事を待つことも無く、ティキは首を傾げながら部屋を出て、廊下で電話をしているアンジェの姿を追うのであった。