それからは色んなことを話した。


お仕事のこと、普段の日常のこと。
好きなもの嫌いなものから、今日は少し冷えるねなんて話まで。
大丈夫?寒くない?って気遣いしてくれる彼の優しさが嬉しい。

2人とも蝋燭の火を囲みながら笑うもんだから
わたしたちの吐息で火がゆらゆら揺れる。

こうしていると本当の恋人同士みたいで心が高鳴ってしまう。
本当ならサンジくんが私のお客さんなのに。
こんなに楽しませてもらっていいのかなあ…


「ふふ、サンジくん…」

「どうしたんだよ。嬉しそうに笑って」

「そうだよ。嬉しいなあと思って!」

「ハハ、沙羅ちゃんちょっと変だよ。酔っ払ってる?」

「んー、そんなことないよぉ。ワインもっとちょうだい?」

「今日は酒おしまい!待ってな。水持ってくるから。」


そう言うとサンジくんは私に背を向けてしまった。


「…待ってよ」


「……沙羅ちゃん?」


気づくと私はその背中に抱きついていた。


「…行かないで。」


「沙羅ちゃん…わかったよ。なら一緒に外行こう。」
















寒くない?これ着てな。いいよ。オレは平気だから。

なんて優しい言葉なんだろう。
この何気無い一言を私は一生忘れられない気がしてしまった。
サンジくんに借りた上着からは昨夜感じた彼の匂いがした。



「いいのかな。こんなに幸せで。」


「それ、本気で言ってる?」


2人で海を眺める。
サンジくんは寒くないように肩をぎゅっと抱いてくれた。


「本気だよ。わたしこんなの初めて。」


「そっか。ならオレも嬉しいよ。レディに喜んでもらえて。沙羅ちゃんにはそのままでいてほしいな。」


サンジくんは青くて深い海をずっと見つめている。
こんなに近くにいるのに捕まえておかないとこのままずっと沈んでいってしまいそうだ。


「どういうこと?」


「いや…君の姉さんはさ。まぁ今の仕事が長いってのもあるんだろうけど、感情がないっていうか、あんまり嬉しそうな表情とかしないから。」


サンジくんの口から姉さんの話が出てきてまた心が痛む。
サンジくんは姉さんのことどう思ってるんだろう。
酔いが回った脳みそで考えてもわからないし
酔いが回った脳みそだからってそんなことを勢いで聞いてしまえるような勇気もわかない。
だからわたしは俯いて そっか、と答えることしか出来なかった。


「大丈夫?少し酔い冷めた?コーヒー淹れてこようか。オレも飲みたいし。」


「うん。お願いします。」


中に入って厨房に戻って行くサンジくんを目線で見送って
わたしもさっきのサンジくんみたいに海を見つめた。
サンジくんには、誰か想ってる人がいるのだろうか。
サンジくん、あのねわたしは、


サンジくんのことが、忘れられないと思うんだ。
初めてのお客さんだからとか、そんなんじゃなくて。

昨日出会ったばかりなのにこんなこと思うの変だよね。
何でサンジくんはそんなに優しいの?
サンジくん、あのねわたしは…ーーーー






「お待たせ。」
「わっ」





考え事してたから、驚いてしまった。
いやそんなレベルじゃなくて、後ろから抱きしめられてる。



「ごめん…厨房窓開けっ放しにしててさ、すげェ冷えてんの。寒ィ〜…」


「そ、そっか、ごめん、上着返せばよかったね」


「いや、平気平気。オレが寒いより沙羅ちゃんが寒い方がオレは辛い!」







「…………好き。」








「…………………え?」



一瞬、時間が止まった。





「あ、えっと、コーヒー!大好きなの!」


「あぁ、そっか。そうなんだ。オレのコーヒーは美味いよ。熱いから気をつけて。」


「ありがとう。いただきます。…」




びっくりした。
心の声ってあんなに自然に漏れるんだ。



「…沙羅ちゃん。」


「ん?」


「それ飲んだら、オレの部屋行こう。」













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