眼が覚めるとサンジくんはいなかった。
昨日見つけてしまった姉さんのピアスが頭から離れなくて
眠気の余韻に浸る間もなくまたベッドの端を確認してしまう。
そしてそれを拾い上げた。

間違いない。これは姉さんのピアスだ。
姉さんも同伴でここに来たことがあるんだ。

別に、何もおかしな話ではない。
何ならサンジくんが姉さんの話をよくすることも
サンジくんの部屋に姉さんのピアスが落ちてることも
普通に考えれば当たり前の話だ。
だってサンジくんは元々姉さんのお客さんなんだから。

それで私が複雑な気分になってしまうことこそが
お門違いな話なわけで。
だって私たちは客と娼婦の関係。
それ以上でも以下でもなくましてや恋愛感情を抱くなんて以ての外。
それで身を滅ぼしていき仕事を辞めてしまった女の子たちの姿を
世話役の生活が長い私は何人も見てきた。

客が女の子に恋心を抱いて買われていった子、
本気の好き同士で駆け落ちしたパターンなんかを除いたら
女の子の方がお客さんに恋をして幸せになる物語なんてまずない。

何故ならうちの店では女の子はみんなの女の子だから。
お客さんに恋をしてしまった女の子は店にいられなくなる。
当然、恋なんかしたら仕事が出来なくなるから。
客も取れないし何も手につかない。
それにうちのママは食い扶持のない女の子の養いも兼ねて雇ってるから、
恋をした女の子は生きていけなくなる。
だからお客さんに恋なんかしてはダメだ。
それが私の十数年の世話役生活の結論。


私は別にサンジくんを特別に思っているわけじゃない。
初めてのお客さんだから、少し肩入れしてしまってるだけだ。



「あ、起きた?おはよう。うどん作ったけど食べれそう?」


ドアがガチャっと開いてお盆を持ったサンジくんが入ってきた。
私はとっさに姉さんのピアスをポケットにしまった。


「おはよ!ごめんねせっかく同伴させてもらったのに昨日何も出来なくて…」


「平気だよ。オレ沙羅ちゃんと話したかっただけだし。さ食べな。サンジ特製明太うどん。二日酔いの朝には最高だぜ?」


「うわ嘘!おいしそう!明太子大好き。いただきます!」


なるべく何も考えないようにしなくちゃ。
サンジくんのお料理はとっても美味しいから
他のことなんて考えられなくなるほど夢中にさせてくれる。

でもサンジくんがうどんをすする私を
優しい目で見つめてるの、視界の端でずっと見えてる。
そんなに見つめられるとどうにかなっちゃいそうだよ。


「沙羅ちゃん本当美味そうに食うね。」


「えっ?そうかな…だって美味しいから」


「作り甲斐あるよ。ありがとう。このあとなんだけどさ、店にジジイいるから裏から出てもらいてェんだけど…そこまで送るよ。」


「ジジイ…それってサンジくんのお父さん?」


サンジくんが少し困ったような顔をした。
でも目は笑ってて頬は染まってる。少し嬉しそうにも見える。


「ん、まぁ…そんなもんかな。」


「そっか。わかった!大丈夫だよ。道覚えてるし。」


「ありがとう。助かるよ。」


あっという間に食べ終えてしまったうどんの器をサンジくんが片付けてくれてる間に化粧を直して出る準備をした。


「沙羅ちゃん。」

「サンジくん、ありが…と、」


部屋に戻ってきたサンジくんに正面から抱きしめられ言葉を紡げなくなる。
あたたかい。なんで、こんなに


「沙羅ちゃん本当にありがとう。実は昨夜、その…沙羅ちゃんの事、忘れられなくて。」
「沙羅ちゃんを、他の男に抱かせたくないって思っちゃって、連れ出しちゃった。ごめん」


なんで、こんなに……
この人に、翻弄されるんだろう……………。




「っく…サンジくんっ、それはズルいよ…」


「え?」


「だめだよ。そんなこと言ったら。わたし…」


「…ごめん。また店に行くね、さ。送るよ。」


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