次にサンジくんが私の前へ現れたのは
姉さんと仲違いをしてから次の次の週末だった。


「ごめん。久々になっちゃったね。元気にしてる?」



言いながら2人で部屋に入って
初めて会った時のように
ジャケットとネクタイを几帳面にハンガーにかけた。
そして後からジャケットの内ポケットに入ったタバコを取り出し手早く咥えて着火した。



「うん、元気。ありがとう。」


もう嘘も平気でつける。
本当は姉さんと喧嘩してから睡眠が浅くなってしまって夜何度も眼が覚める。


「仕事にはもう慣れた?」


「うん。お陰様で。」


「楽しく働けてる?」


「ボチボチかな。でも、やっぱり」


久々にサンジくんを見ると、
やっぱり素敵だなあと思う。

他にも若いお客さんは結構来るけど
サンジくんは大人の雰囲気も持ち合わせていると思う。
今話してる時もこうして目を見て頷いてくれるところとか
自分の話をするより私の話を聞いてくれるところとか
脱いだ服は必ず丁寧に畳んでから寝るところとか
タバコの煙が私にかからないようにしてくれるところとか。



「…やっぱり?」


「…サンジくんといる時が、1番楽しい、かも。」


「…そっか。ありがとう。」




お客さんみんなにそう言ってると思われたかな。
営業トーク上手くなったなって思われたかな。
嫌だな。サンジくんにそんな風に思われるのは。



「っ……………」


「沙羅ちゃん!?どうしたの」


何故だか涙が溢れた。
本当に何でなのか、自分の気持ちがわからない。
わたし、サンジくんのこと好きなのかな。
サンジくんが姉さんを選ぶのが嫌なのかもしれない。
サンジくんの理想の女性で私はいたいのかもしれない。
もう何もかもがわからない。
どうしてこんなにこの人に揺さぶられてしまうんだろう。どうしてこんなに。




「っごめん…何でもない…」


「何でもなくはないだろ…おいで。」


サンジくんは軽く腕を広げてくれたけど
どうもその胸の中で涙を流す気にはならないみたいだ。
わたしはうずくまったまま顔を手で覆い続けた。
1人でいい。1人で泣きたい。
サンジくんは何かを察したように腕を下ろして2本目のタバコに火をつけた。


「落ち着くまで、オレのこと空気だと思っていいから。」



「っどうして、…どうしてそんなに、優しいのよっ…!」



大切な姉さんの妹だから?
わたしが女の子だから?娼婦だから?
今はどんな理由にも納得が出来ない。
どんなに泣き叫んでも望み通りの答えは返ってこないだろう。


「沙羅ちゃん…オレは、沙羅ちゃんのことが大切なんだよ」


「っ姉さんの、妹だから…?」


「違うよ……君だからだよ。何があったのか、教えてよ。」







優しく抱きしめられる。
どうしてこんなにあたたかいんだろう。
どうしてこんなに大事にしてくれるんだろう。
いくら考えてもわからないしわかりたくもない。
涙の理由もわからない。けれど何か言わなくちゃ。
大切なお客さんが私の心配をしてくれてるんだから。




「姉さんと、喧嘩しちゃって…」


「姉さんと?」


そう言うとサンジくんは
何かを思い出したようにポケットを探り出した。


「これ。沙羅ちゃんに渡しといてって。自分で渡す方が早いのに何でオレに預けるんだろうと思ってたけど、そういうことか。」


サンジくんが取り出したのは
2週間前、件の姉さんのピアスを引っ掛けた私のヘアゴムだった。


あの女…………………
これは彼女からの宣戦布告だ。
2週間私がサンジくんと会えなかった間に
自分は良い思いをしてたのよという
私に対する意地の悪いアピール。


「……泣いてる場合じゃ、ないよね。姉さん…」


「沙羅ちゃん?」


「サンジくん…抱いて」


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