接近

焦凍くんと再会して2週間が経った。

攻撃に長けていることから治安維持や犯罪抑制にも一役買うと見込まれた焦凍くん、もといショートやデク、また索敵に長けたイヤホン=ジャックやテンタコル等を主力にしたプロヒーローらと警察による現場捜査が続く中、私は一連の事件に関わる容疑者の取り調べと調書作成に追われていた。
下っ端ではあるが組織の工作員の取り調べと調書を取ることにも成功した。忠誠心が低いのか知っていることを全て話しはしたが、下端に与えられる情報は雀の涙ほどもなかった。それでも捜査による証言や索敵に長けたヒーローたちのおかげもあって着実に拠点アジトの幹へと近づきつつある。

そして焦凍くんとの再会の日からというものの、私の生活で変わったことといえば捜査が本格化して忙しくなってきたこと。それに加えて彼・・・焦凍くんから、毎日とはいかなくても暇を見つけてはパトロール中に見つけたという道端に咲いてた花の写真だとか、ツバメの巣を見つけただとかいう他愛もない連絡が来るようになったこと。さらには、

「醤油どんくらい入れたらいいんだ」
「ちょろって出たぶんぐらいでいいよ」
「ちょろ?」
「あ、えっと。さじ使った方が分かりやすいかも・・・」

私の家に訪れては不器用ながら共に料理を作ることが増えた。
発端は彼の食生活を心配した私が余計にお節介をかけたことから始まった『彼の食管理』だったけれど毎日毎日面倒が見れる訳でもないので、ちょっとでも自分でなんとかできるように料理を教えるという私からの提案により、週末はこうして料理を教えながら共に夕飯を食べることが増えた。
あんなに頑なに避けていたのが柔らかくなったと言ってしまえばそうとしか言いようがないけれど、帰ろうとすると庁前で待たれていては逃げようもないし、早く料理を覚えてもらえれば私はお役御免だと考えているので諦めてしまったという方が正しいかもしれない。

「・・・美味ぇな」
「良かったね、半分は焦凍くんが作ったんだよ」
「いや、ほとんどなまえの裁量だろ」
「うーん・・・でも焦凍くん物覚え早いからすぐに応用利かせられるようになるよ」

だから頑張ろうね、と意気込む私を見て彼の箸が止まった。じぃっとこちらを見つめるのはあの無表情なので、怖く感じる人が多いかもしれないけれど"個性"が相俟って、怖いというよりは動揺の方が勝っている。

【・・・変わんねぇな】

「、焦凍くん?」
「・・・いや、ここまで世話焼いてくれんのが昔と変わんねぇなって思ってた。俺が親父にしごかれて痣作って学校来た時、泣きそうな顔で心配してくれただろ」

そういえばそんなことも、あったかな。その時の焦凍くんは心の声も相俟って少し怖い、という印象しか無かったのだけど、前日まではなかった痣が見えてしまっては誰だって心配するものだ。

「・・・、それは、私だって。焦凍くんにたくさん救けられてるよ」
「そうか?」
「う、うん。だから今度は私が救ける番というか!頑張って覚えていこう」

なんとなく気恥ずかしくなってしまって話をそこそこに切り上げようとしたのが何となくわかったのかふわりと柔らかい笑みを浮かべ、そうだなと答える焦凍くん。

【照れてんのか】
【可愛い】

なんて心の声は気のせいだと思いたい。



「最近、俺らの活動をこそこそ嗅ぎ回ってるポリ公とヒーローもどきが居るらしい」

夜といえども灯りが犇めくことで太陽とは別の明るさを放つ東京。そんな景色を俯瞰する形で立っている影が二つ。
景色に見合わず淡々と放たれる物騒な会話に驚くでもなく相手は相槌を打った。

「なんでも、その情報を流しているのがあの女だとか」
「・・・・・・へぇ、みょうじなまえ・・・ね」

痛い目、見た方がいいかもね。
と言って見下ろす先は検察庁。ひとつの正義が悪を根絶しようと奔走している間にも、またもうひとつの正義を以てゆらりと蠢こうとしていた。

犯罪組織Xー違法薬物を取り扱い、その薬物と"個性"の化学反応を用いて睡眠や麻痺、あるいは催涙や幻覚などを引き起こして一般市民を混乱に巻き込むヴィランである。