「っ」
「君、面白い"個性"持ってるじゃない。人の心の声が聞き放題なんだね!」
新しいおもちゃを見つけたかのように笑う目の前の
何故、何故。"個性"がバレているのか。
「何を、」
「何って・・・君がさっきから気になってる僕の"個性"だよ。透過とか何とか思ってたみたいだけど、僕の姿が周りから見えていないのはこのサポートアイテムであるケープコートのお陰でね。『借用』こそが僕の個性なんだよ。」
こうやって相手に触れている間しか使えないんだけどね、と聞いてもいないのに己の個性について話し始めた背後の男には今の自分の考えが筒抜けらしい。
ならばと、こちらもこの男が考えていることを"個性"で探ろうとしたのだけど。
「あ、無駄だよ。僕のはねえ、触れてる間は僕が"個性"を借りてることになるから、借りられてる方の人間は"個性"が使えないんだ」
ついてきてくれるよね?個性ばらされたくないでしょ?
何を考えているかも分からない男の目を睨みつけ、縦にひとつ頷くことしか私にはできなかった。
救けて、とも心の中で願うことが出来ない状況下を打破するかのように鞄の中に入れていた携帯が震えたのもほぼ同時だった。
〇
「ショート!そっちは終わった?」
「・・・・・・雑魚ばっかだな」
連絡を受けて来てみたもののそこに居たのは所謂雑魚敵だった。ただ、如何せん数が多いので多少被害はあったようだが、それも救助活動に長けたヒーローが迅速に対応してくれていたので大事にならずに済んだ。
「ショートさん。とりあえず報告書書きに事務所戻りましょう」
「・・・ああ、」
なんでだ。敵は倒したはずなのにもやもやが拭いきれない。あまりにもあっけなかった。
まるでこれが囮だったかのような・・・、本命が他にいたかのような。
(考えすぎか)
戻って報告書を書いたら、なまえからさっきの言葉の真意を聞かなきゃならねぇ。
一応、連絡入れとくか。さっき釘刺しといたから流石に返してくれるだろうとメッセージ画面を開いて逡巡。なんとなく声が聞きたくなって、電話帳から見慣れた番号を探す。
『・・・もしもし』
「?・・・なまえ?今敵制圧したから、後処理終わったら迎えに行く。そこで待っててくれ」
『・・・ごめんね、今日は用事が、あって』
「・・・は?おい、逃げんじゃねぇ」
『・・・』
『約束』してもなお、歯切れの悪さと往生際の悪さに多少の苛立ちと焦りが募っていく。痺れを切らして、名前を呼んだ。
「なまえ、返事しー」
『っ・・・"ショート"、くん』
「なまえ?」
『ーーー救け、』
最後の音が吐き出されることなく、ガシャン!と盛大な音を立ててなまえの通話は強制的に切られてしまった。
「なまえ!おい、なまえ・・・っ!」
「と、ショート?!大丈夫・・・っ!?」
急に声を荒らげた俺に気づいたデクがこちらへと駆け寄ってくる。
「・・・緑谷、なまえが」
なまえが、危ない目に遭ってるかもしれねぇ。