中学生になった。
人は思春期になると本音と建前が生まれてくるらしい。
だんだん周りの人の心の声と肉声がかけ離れたものになるのを目の当たりにする中、焦凍くんは相変わらず静かで、それでいてストレートで裏表が無かった。これが彼の元来の性格なのだろう。気になったこと、思ったことはすぐに聞いてくるし声に出す。出てくるのも心の中に留めておくのもマイナスの言葉ではなく、優しくて思いやりのある言葉が多い。一緒にいて相変わらず心地が良かった。
"個性"への理解を深める一環で本好きだったのが彼と私共通の"好きなこと・話題"であり、本の好みもなんとなく似ていたから学内では一緒にいることが多かったけれど、流石に中学生ともなれば男女の性差が現れ始めて疎遠になる頃。一緒にいるならそれはもうカップルとすぐに茶化されるような年齢になる。
それに加え、焦凍くんはモテた。それはすごく。親父(エンデヴァー、というのは彼の口から聞いて初めて知った)への恨み一辺倒のため周りに興味がなく、相変わらず冷たくあしらうことが多い彼なのだけど、それが世の女の子的には『ぐっとくる』ポイントらしく、ルックス相まって(家柄の話題ありきだろ、と彼は言うけれど)彼に多くの矢印が向いた。
ともなると周りのことに興味が無い彼が唯一、廊下で会えばちょこちょこ話す仲である私にも疑惑や嫉妬、興味の矢印は向くわけで。"無個性"も手伝って男女問わず様々な心の声が向いた。
「轟ぃ!そんな"無個性"といたらせっかくの強"個性"が霞んじまうぜ」
相変わらずゲラゲラと"無個性"を笑われることもあった。それに伴って隣にいる焦凍くんも馬鹿にされてしまうのだ。何も言い返さないでいる私を一瞥するだけで彼は何も言い返さなかった。
「・・・・・・」
【なまえのこと馬鹿にしやがって・・・許せねぇ】
「焦凍く、」
「・・・気にすんな、言わせとけばいい」
「でも、本当のことだから・・・」
自分の保身より、他人の心配。
周りの心の声が複雑になっていく中、焦凍くんは私を守り続けていてくれた。"無個性"で焦凍くんも馬鹿にされるくらいなら、と距離を置くことも提案してみたのだが『嫌だ』と真剣な目でバッサリ切り捨てられてしまってからはそのことも話題に出さなくなっていってしまった。
1年の間は同じクラスだったこともあり、接点が多かったけれど、学年が上がってクラスも離れてしまってからは私たちの接点は段々と薄いものになっていった。といっても行き帰りのタイミングが偶然合えば一緒に帰るような仲ではあったのだけど。
それでも学年が上がるにつれ将来へのビジョンを明確にして努力する焦凍くんの背中を見て、いつまでも彼に守られてばかりじゃ駄目だ、自分の身は自分で守らないと、という思いが加速していくのも易かった。そのためには"個性"の暴発を何とかしないといけない。何を言われても何の感情も生まれないようにはなってしまったけれど、これから先自分のためにも『慣れる』ではなくて『抑える』にフォーカスを当てるべきだと思った。
〇
焦凍くんとクラスが離れて変わったことがある。あまり話したことの無い男子や女子がちょくちょく話しかけてきてくれるようになったことだ。
基本的に焦凍くんが近くに居たから話しかけたくても話しかけられなかった、と零す人達がほとんどで(焦凍くんが近くにいたら何がだめだったのかをそれとなく聞いてみたら『眼力が怖い』らしい)、"無個性"と馬鹿にしてくる人間は一部、"無個性"を厭わず私をただ一人の人間として見てくれている人がいたことに感動したのは記憶に新しい。ただ、この"個性"故に人付き合いは苦手なのであまり親密な仲になれる人はいなかったのだけど。
変わったことといえば、恐れ多いことに告白をされることも増えた。相変わらず"個性"で自分へ向けられる声の中にそういった類のものがあったのは知っているので、気持ちに応えられなかった私は肉声を以て決定的なものにされる前にあれよこれよと逃げ躱していたのだけど。焦凍くんという存在が隣にいなくなってからは躱す術が減ってしまった。
然し、気持ちに応えられない・・・所謂『好き』とか『付き合う』ということがどんなものかはっきりと実感できなかったので、どの告白もお断りしていた。
そしてお断りした後に必ず聞かれるのが『轟のことが好きなのか』という質問だった。
焦凍くんのことは好きだ。でも、相手が聞いてくる『好き』と私の思う『好き』は多分重みが違う。私の言う『好き』は人間として、
友達としてのものだった。
自分の"個性"のことで頭がいっぱいになっていた時期ともあって、そもそも色恋沙汰は二の次三の次に足らず頭からすっかり抜け落ちていた。この意識のなさが恐ろしい出来事を生み出すとは考えもしていなかった。