ー「もうひとつ、お聞きしたいことがあるんです」
「何でしょう?」
「その『見知らぬ男』のことについてです」
そんな会話を剛田さんとしていたのがつい先程。
鞄を押し付けてきた男も何かしら知っているのではと踏んで、特徴や向かってきた方向等を事細かに聞いた私は例の違法薬物犯罪組織(長いのでここではXと呼ぶことにする)について捜査を進めている班に補充捜査という形で加わっていた。
「お疲れ様です。検察庁から参りましたみょうじといいます」
「お疲れ様です。警察庁の丸井です」
どうやら捜査を終えて戻ってきてからの情報共有会議の直前のようで、捜査班の人数の割に閑散としている。各々が休憩を取っている頃のようだった。
「補充捜査として参加させて頂くことになりまして・・・、と言っても指示を仰ぐことしかできないのですが・・・」
「いえ、充分ですよ。現場捜査は我々の仕事ですから。それに今回の捜査班には心強い助っ人も何人かいますしね」
「助っ人、ですか?」
新たな捜査員の存在に少しの驚きを交えつつ返事を返す。警察官は朗らかにええ、と答える。
「一般市民を守るべく、そして迅速な収束の為にプロヒーローも捜査に加わってくれているんですよ。」
「プロヒーロー、ですか」
どくん、と心臓が音を立てた。
今朝見たプロヒーロー活躍のニュースが脳裏をよぎる。
「結構大掛かりな事件ともあってですね、関わっているヒーローもひとりやふたりじゃなくて・・・。まあ今日来ているのはひとりなんですけどね、すごく優秀なヒーローですよ。ヒーローに疎い人でも名前くらいは知ってるんじゃあないかな」
私の動揺にも気づくことなくすらすらと話を進めている間にも、数人しかいなかった会議室の扉がカチャ、と軽い音を立てた。
後ろで私と丸井さんのやり取りを見ていた女性検察官の先輩がきゃあ、と黄色い声を上げるのが聞こえて釣られるように扉の方に目を向けた。そこにいた男に思わず目を見開く。
春とはいえまだ肌寒いため肌面積が少ない紺のヒーロースーツに白のブーツを合わせ、赤と白で綺麗に二分された髪色をさらさらと纏うのは火傷跡を込みにしても整った顔立ち。
今朝ニュースで怪我人に救いの手を差し伸べていた人物が今目の前にいる。
「あ、戻ってきた。こちらプロヒーローのショートさんです」
ショート、と紹介された男が険しい顔でこちらに向かってくる。碧と灰の色違いの瞳を揺らつかせてこちらをまじまじと見つめていた。
「・・・検察庁から来ました、みょうじです。よろしくお願いします」
なんとも言えない沈黙をなんとか破らなければ、と思いとりあえず『初対面』として挨拶と所属を名乗る。
「ショートだ。」
私のたどたどしい自己紹介をばっさりと切り捨てるような簡潔な自己紹介に思わず笑みが零れてしまいそうになったのもつかの間。
目の前が急に暗くなり閉塞感に襲われたかのような感覚になったかと思えば、先輩検察官の戸惑ったかのような声が後ろから聞こえてきて状況がだんだんとクリアになっていく。
「・・・久しぶりだな、なまえ」
私はショートに力強く抱きしめられていた。