「八田ちゃん、せっくすって知ってる?」
ぶふっ、と飲んでいたコーラを吹いてしまったことは許して欲しい。
「は、はぁ!?おまっ、なにっはぁ!!?」
ゲームを中断するのも忘れ、八田の敷いたままになっている布団の上に寝転がる名前を勢いよく振り返る。顔に熱が集まり、自分でも何を言っているのか分からなかった。
「八田ちゃん汚い、ほら拭いて」
「お、おぉう……」
口からだらりと零れたコーラを名前がハンカチで拭ってくれ、八田は顔を赤くし大人しく拭かれている。
普段なら自分でやれると拒否するのだが、この時の八田の頭は正常に作動していなかった。それほどまでに名前の言った一言が衝撃的だったのだ。
「お、お前…それどこで聞いて…」
「千歳がね、付き合ってるならせっくすするでしょーって」
「あんの…野郎……!」
今はいない吠舞羅のメンバーを思い浮かべながら、八田は拳を強く握りしめる。次あったらぜってぇぶん殴る。そう決めて、GAME OVERと書かれた画面をぼんやりと眺める。
「八田ちゃんはせっくす知ってるの?」
「は!?えっ、あ、あー………いや、知らないって、わけじゃ……ない、けど…」
一瞬忘れかけていた話題を再び持ち上げられ肩を揺らした八田だったが、名前の純粋な目から逃げるように、視線をあちこちに動かす。視線動かしたところで、この部屋には救いの手を差し伸べるものは無いのだけど。
「八田ちゃんせっくす教えてよー!」
「は、はぁ!?な、ななっなんで俺が!」
「だって、恋人同士はせっくすするんでしょ?」
「うっ、いや、間違っちゃいねーんだけど……」
教えられるものなら教えてやりたい。しかし、内容が内容だ。
正直な話。八田はキスは疎か、最近やっと手を繋いで歩けるようになったくらいだ。
口で説明するにも、数秒で八田の羞恥心は限界を超えるだろう。自身の中にある赤の力で爆発できる自信がある。
「八田ちゃん、私とせっくすしたくない…?」
「へ?」
「八田ちゃんがしたくないなら千歳に教えてもらうから、無理しなくていいよ」
「は?」
まるで脳みそだけが別の場所にあるみたいに、理解が追いつかない。
したくないとは言ってない。つか今こいつなんて言った?千歳と、何をすると?
「千歳はやめろ」
「じゃあ鎌本」「だめだ」
「さんちゃん」「だめだ」
「出羽くん」「だめだ」
「赤城くん」「だめだ」
「藤島くん」「だめだ」
「エリック」「だめだ」
「もー、じゃあ草薙さん」「だめだ」
「えー!十束さんも?」「だめだ」
「キングは!?」「尊さんでもだめだ!」
「むぅー!じゃあじゃあ猿比古!」「絶ッ対だめだ!」
吠舞羅のメンバーだけじゃなく、何故、伏見の名前も出してくるのかと八田は頭を抱えたくなった。
「べ、別に嫌とか言ってねぇだろ…」
「じゃあなんで」
「あの、あれはだな!その、お、大人になったらするもんだ!!」
「大人って…もう19じゃーん」
「ばっ、か!まだ19だろ!!は、二十歳超えなきゃ…だ、ダメなんだよ…」
「えーそうなのー?そっか……じゃあしょうがない」
苦し紛れの言い訳を、疑うことなく飲み込んだ名前にほっと安堵のため息を吐く。
CONTINUE?と書かれた画面に手を伸ばそうとして、やめた。敷いたままの布団の方に向き直り、八田は息を整えて名前を呼ぶ。いつもより少し硬い声。
「なぁに?」
八田の布団の上で仰向けに寝転がり雑誌を読む名前に、覆いかぶさるようにして顔を覗き込む。少し見開かれた瞳に少し口角が上がるが、くっと引き締めてそのまま顔を近づける。
「今日は、これで勘弁しろ…、」
「んっ…」
少し触れただけの唇は甘い味がした。
-14-
prev / next
ALICE+