「はっぴーばーすでー」
そう言ってぽん、と紙で出来た王冠を乗せる。不恰好なそれを頭に乗せた彼は、きょとんと驚いたような表情を浮かべていた。
長い睫毛がチョコレートみたいな瞳を隠したり、見せたり。しばらくそれを繰り返して、彼はふ、と可笑しそうに笑った。
「俺の誕生日は昨日だよ?」
「昨日は吠舞羅でパーティーだったでしょ」
そうだね。彼は笑う。何が可笑しいのか、何が楽しいのか、何が嬉しいのか。私には分からない。あぁ、でも、彼が笑うのなら何でもいいや。
「名前も来ればよかったのに」
「人多いとこ嫌いだって知ってるくせに…」
眉を寄せそっぽを向くと、頭に何か温かいものが乗る。それが彼の手だということを理解するのに時間はかからなかった。特に手入れをしていない髪が彼の指先にゆるゆると絡まり、つんと頭皮を引っ張られる。
「いたい」
「ごめんごめん。名前の髪は柔らかいから俺好きだなー」
「痛んでゴワゴワの間違いじゃない?綺麗な髪なら絡まらないよ」
「そんなことないよ」
「多々良の髪は絡まないでしょ」
「えー、オレだって絡まる時ぐらいあるさ」
頭ごと引っ張られたり、チクチク痛むが、彼に髪を触られるのは嫌いではない。王様の力のせいか、ほんのり温かい指先が絡んだ髪を解いていく。
ふわりと香る彼の匂い、それと指先の温度、それだけでゆるりと眠気を誘われる。
「ふふっねむいの?」
「ん…」
「おいで」
ぽんぽんと叩かれた彼の膝に頭を乗せると、頬に指先が触れた。ふわり、ふわり、眠気が落ちてくる。肌の上をすべるように振れる手が気持ちいい。
閉じかけている目で彼を見上げると、彼は相変わらず笑みを浮かべたまま。きれい。きれいな、
「ちょうちょ、みたい」
「ん?出そうか?」
「そっちじゃなくて…多々良が」
「俺が?」
「フワフワ…飛んでる感じ……いつの間にか、遠くに行っちゃいそう…」
チョコレートが溶けたみたいな色の瞳が少し見開かれる。温かい指先が、私の手に触れた。
冷えた指を伸ばして今度は私が、彼の頬に触れる。指先と違って、冷たかった。そのことに少し驚いたが、特に気にすることなく滑々な頬に指を這わせた。
いつもの微笑みも、この冷たい頬も、彼の中にある赤の力も、全部。気づいたら、どこかへ消えてしまうんじゃないかって。
「こわい」
そう呟いて、目を閉じた。もう、彼の顔は見えない。
眠りに堕ちるその瞬間、彼が少し笑ったような気がした。
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