染める白



似合わないと、そう思った。
真っ黒だった学ランは清潔感溢れる白なり、腰には冷たいサーベルをぶら下げている。
サラサラな髪は軽くセットされていて彼にとてもよく似合っていると思う。

でも

身に纏う白は、似合わないと思ったのだ。



ガコンッと音を立てて落ちてきた紙パックを拾い上げ、自販機にかざしていたタンマツをポケットにしまう。

「あ」
「…よう」

紙パック片手に後ろを振り向くと、真っ白な学ランに身を包んだ彼がいた。相変わらず怠そうな感じだ。
自販機から少しずれてやると、彼はポケットからタンマツを取り出し自販機にかざす。蛍光色に光るボタンを押すと紙パックがまた落ちてくる。
ふと、真っ白な学ランの袖に汚れを見つけた。砂が滲んだみたいな茶色い汚れ、大方また赤部の部員と抗争でもしたのだろう。

「袖、汚れてる」
「あ?あぁ…」

パックにストローを刺して、パックの中の甘いココアを喉を上下に動かしながら嚥下していく。
ぱちり、視線を少し上げると彼の視線とぶつかった。どうしてか、逸らせない。
ストローを口から外し、しばらく彼の灰色掛かった青い瞳を見つめてみる。瞬きを一つすると、ボタンを押すと紙パックが落ちてくる自販機のように、ある考えが落ちてくる。
ふ、と声を出して笑うと、彼は不思議そうに私を見下ろしてくる。
ストローを口に含み、パックの中に空気を入れるとパックがまん丸、鎌本くんみたいな形になる。
パックが膨らんだところでストローを離し、その口を彼の方へ向ける。彼はまだ不思議そうな顔。

「ごめんね」

先に謝罪の言葉を述べ、ぐしゃりとパックの真ん中を押してやった。

「!っ、……な…にしてんだ…お前」

彼の怒りが含まれた言葉が右から左へと抜けて行く。
勢いよく噴射されたココアは見事、彼の真っ白で清潔な学ランを茶色く染めあげた。茶色がじわりと広がっていき、甘い香りが漂う。

「汚れちゃったね」

そう言って笑うと、彼は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに不機嫌な顔になって「お前が汚したんだろ、」と吐き捨てる様に言った。
白が茶色く染まる。その光景ににんまり笑みを浮かべていると彼は白い学ランを脱ぎ始める。

「チッ、クリーニング出さなきゃなんねぇだろ…」
「じゃあ私が洗ってあげる」

彼の手から白い学ランを奪い取ると、思っていたより濡れていた。少しやりすぎたかな、なんて、ちょっと反省。

「は?別に…」
「私が、汚したから」
「……なんなんだよ、今日のお前…」

ため息を吐いて頭を抱える彼は、灰色のシャツ一枚で、真っ白な学ランよりはいいかな、って。

「うん、まし」
「はぁ?何が…」
「伏見くんに、白は…似合わないなぁと思って」

そう言って笑うと彼は、また舌を打つ。

「キレイに洗って返せよ」

そっぽを向きながらそう言われ、少し口角を上げた。

「二度と返さないかも」



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