白?いいえ黒です



「ん、」
「……、っ?」

眠そうな顔で差し出されたそれを咄嗟に受け取ると、伏見さんはそのまま寮へ戻るのだろうか踵を返す。渡されたコンビニのビニール袋を持ったまま、一秒、二秒、三秒。やっと出た言葉は音にもならなかった。

「ふ、伏見さん待ってください!ここ、これは一体…」
「……今日、ホワイトデーだろ」

慌てて伏見さんの腕を掴み、うわ細…、じゃなくて、コンビニの袋を持ち上げる。
確かに3月14日はホワイトデーだ。ホワイトデーだが、私はバレンタインデーに伏見さんへ何かを送った覚えはない。寧ろ逆チョコとやらを貰ってしまい………あの、そ、そう言う関係になったのだけれども…、いやこの話は置いておこう。

「ホワイトデーですけど…、私伏見さんに何も渡して無いですよ?」

そう言うと、伏見さんは相変わらず眠そうな顔で、何でもないように、

「お前のこと貰ったから」
「っ!?」

不意打ちはずるいです…伏見さん……。
熱の集まってくる顔を腕で覆い隠して伏見さんからみられないようにする。たぶんっていうか、絶対変な格好だけど今はちょっと心臓がやばい。

「ねむ……」
「えっ、あ、へぁ?」
「あ、そっか」
「うぇ、?」

伏見さんが何かを思いついたような声を上げたと思ったら、顔を覆っている腕ごと抱きしめられた。
なんなんだこの人!なんなんだこの人!!
寝ぼけ顔でなんかふにゃっとして仕事中とのギャップがすごくてかわい、じゃない!

「お前の部屋で寝れば部屋戻んなくていいか」
「へっ、え!部屋来るんですか!?」

やっぱり何でもないように言う伏見さんだが、私には何でもないことがない。最近忙しくて(と言い訳)部屋はあまり綺麗とは言えない。

「ご、5分、いや2分待ってください!!」
「無理やだ」
「えちょちょっ!」

せめて1分でも掃除する時間が欲しかった。
開けっ放しにされたドアを閉め、伏見さんは私をぬいぐるみか何かを扱うように腰元に手を添えてずんずん部屋の奥に入っていく。
ベッドまでの迷いのない足取りに、間取りを把握してるんだなぁとかちょっと思ったり…。いや、ベッドがあるのリビングだから当然なんだけども!!
自分の部屋に伏見さんが何度か来ているってことを実感するというか…そんな、うん。ふ、伏見さんなら1回見ただけで部屋の間取りくらい覚えられそうだけど!

「んぎゃっ」
「色気のねー声…」
「えっぇぇえ!ちょっ伏見さん!?」
「んー…静かにしろよ」

考え事をしている間に、ベッドまで到着したようで、安いベッドのスプリングがギシリと音を立てた。
ほう…これが押し倒される感覚………じゃないよ!!!
とろんとした眠そうな目、隙だらけにみえて全く隙がない。腕はがっちりと伏見さんに掴まれて動かない。
え、あれ?これやばくね…?

「ふっ、伏見さん!」
「ん、柔らかい…」
「うぉあぁ!?ど、どこに顔埋めてるんですか!!?」
「お前結構あるんだな…」
「うわぁぁあ!!」
「っ、てぇ……」

鈍い音がして額に痛みが広がる。額を押さえながらこっそり伏見さんを見ると、伏見さんも額を押さえている。どうやら、思い切りずつきをかましてしまったらしい。
しかし、その衝撃で押さえつけられていた腕が解かれ自由になる。月に一度見えるか見えないかの伏見さんの"隙"、これを狙わないわけがない。
これでも一応、異能力者に対する訓練を受けている身、身体能力はそこらの女子より断然高い。副長には当たり前だけど敵わないが。額を押さえている伏見さんの下から素早く抜け出し、突進するように反対側の壁まで逃げる。

「て、めぇ…」
「ひぃ!」

それはまさに、鬼の形相。
伏見さんの背中には、ゴゴゴゴ、と言う効果音でも付きそうな黒いオーラのような物が見える。気がする。
今すぐ抜刀しそうな勢いだ。サーベルは持って無いけども…、いや、確か伏見さんは体中にナイフを仕込んでるって誰かが、

「名字……」
「ひやぁい!!すすすすみません!!ごめんなさい!!!い、命だけはご勘弁を!!」

頭を抱えて顔を伏せると、チッ、と伏見さんお得意の舌打ちがベッドの方から聞こえる。あぁ、完全に怒ってらっしゃる…。

「……名前」
「うへ…?」

ベッドのスプリングが音を立て、抱えた頭の上から静かに伏見さんの声が降ってくる。
恐る恐る顔を上げると、私は思わず目を丸くした。

「…、ふし、みさ…?」

悲しそうな、苦しそうな、そんな表情をした伏見さんがこちらを見降ろしていて、伏見さんのずれた眼鏡の奥にある青い瞳からは今にも涙がこぼれ落ちそうだ。

「っ、ごめん」
「へっ!?」
「謝るから、もうしないから…嫌いになるな……」

小さな子供の様に縋り付いてくる伏見さん。え、ほんとになんなんだこの人。ぐりぐりと頭を私の方に押し付け、甘える様な行動。なんなんだこの人!
なんと言うか、こう、母性本能がくすぐられると言うか、なんなんだ!!
いつものキリッとダルッとした感じじゃなくて、本当に、迷子の子供みたいな不安に揺れる瞳に何故か胸の辺りがキュウッと音を立てた。
これが、ギャップ萌えというやつか…?

「ふ、伏見さん…嫌いになんてなりませんから…あの、その、ちょっと…びっくりしただけって言うか……」
「嫌いにならないか?」
「な、なりませんよ!」

だって、仕事の時はかっこよくて、こういう時は可愛いなんて、ちょっと反則じゃあないか…?
目尻に少し涙を溜めている伏見さんは、いつもより幼く、ふにゃりと笑う。そして、また甘えるように私にギュッと抱き付いた。あ、伏見さん良い匂い。

「そう、か…」
「?」
「嫌いにならないんだよなぁ名前…?」
「え、えぇ?」
「なら、いいよな」
「えぇええ!!!??」

にっこりと笑った伏見さんは、いつもの怖い笑み。
これは、嵌められた。





(これ食わせて)
(寝るんじゃなかったんですか…)
(お前の頭突きのせいで目が覚めた)
(うっ!)
(あーんってしてくれんだろ?)
(それは、バレンタインのはなっ、んんっ)
(ん、うるさい)
(不意打ちはずるいですって……)


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