ある日の昼下がり、いつもの様に立ち入り禁止の屋上でカロリーなんたらを貪っていると、閉めたはずの扉が控えめに音を立ててゆっくりと開いた。いつもだったら気にしないのに、今日だけは気になってその音がした方に顔を向けてみた。そこには見慣れた茶色と黒色。目を丸くしている二人に、よ、と軽く手を上げてみると、茶色が嬉しそうに近寄ってくる。その後ろからゆったり黒色もきて、あっという間にいつもの風景。三人で小さな円を作って、茶色の持ってきたコンビニのお握りとかパンとかお菓子をみんなで分け合う。茶色は給食だけじゃ足りないんだって。
やっぱりこの間の惜しかったよなーなんて、飛行船を追いかけた日のことをまだ話している茶色。興味なさそうにチョコレートを真っ二つにする黒色。いつもの感じ。
でもなんだか自分の中で、今日は少し違う感じがした。
飲んでるゼリー飲料の味は昨日と同じだけど。
「…またそんなんばっか食ってんのかよ!ちゃんと栄養取れねぇぞ!」
「………お前は、栄養取ってるのに大きくならないの?」
「ぶっ殺すぞてめぇ!!これからに決まってんだろ!!」
「牛乳飲めないんじゃ知れてんじゃねぇか?八田ぁ」
「うっせぇ!すぐにでもてめぇ等のこと抜いてやる!!」
キレる茶色に、黒色とけらりと笑って見せる。こうやって馬鹿みたいに喋って、何気ない事で笑い合ったりできるこの空間が好きだ。って気づいた瞬間。誰かに壊されないかと不安になった。
「ったく、んだこれ。こんなの食っても腹膨れねーだろ」
「あ、オレのカロリーなんちゃら」
「てめぇは米食え米、つか給食ちゃんと食ってんのかも怪しいな……」
「…………」
黙る。黙られる。何か言いたげな視線から気まずくなって目を逸らすと、茶色がまたキレた。
ぐちぐち、冷たいタイルの上に正座して、鬼みたいな表情をして、まるで、まるで――?
「まるで、………えっと、なんだっけ」
「はぁ?なんだよ」
「ぁ………ううん、」
なんもない。そう言って口は少し開いたまんま。思い出せないや。何を?何が?ぐるぐるぐるぐる、頭の中で考えてみても答えは出ない。いつもだったら、いつもだったら、考える前に諦めてしまうのに、やっぱり今日だけはぐるぐると考える。
自分は一体何に例えようとしたんだろうか。少し開いた口から息を吐いて空を見上げる。少し、雨の匂いがした。
「……そう言えば」
黒色が言った。オレは相変わらず口を開いたままで、茶色が不思議そうに黒色を見る。
「おれ、お前の名前知らないわ」
え、と出た声は誰のものか。なんて、そんなの気にならない位にどくりと心臓が跳ねた。さっき飲み込んだゼリー飲料が這い上がってくるような感覚に思わず口元を押さえるけど、あれ、と、違和感。オレ何で口押さえてんの?
「言われてみれ…、あ、れ?」
「っ、?」
「………あー……」
今まで燻っていたような気がしたもやもやが綺麗になくなって、全部飲みきってしまった缶ジュースみたいに軽くなる。
「何の話してたっけ?」
茶色と黒色が不思議そうな顔をしていても、少しの違和感は消えてしまった。何か忘れてる?そんなことない。そんなこと、ないんだよ。
《なにを、》忘れているのかも、忘れてる。
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