まだ、



真っ暗だった視界に真っ赤な何かが映る。身体に痛みを覚えて、閉じていたらしい目を開く。
あれ、オレ、何してたっけ。
まただ。また何かを忘れている。そのうち、この忘れていると感じていることも忘れるんだろう。
は、と短く息を吐きだすと、また赤が見えた。

「赤色…」

どこかで見覚えがある様なそれに眉を寄せると、鼻から独特の匂いが香ってきた。
三人、赤い髪に金色の目の男に、赤色のスカーフを巻いた男、そんな男たちといるとなんだか少し違和感を感じる優しそうな亜麻色の髪の男。

「大丈夫か中坊?」
「だれ…ですか」
「助けてもろた相手に誰、っちゅうんは些か失礼ちゃうか?まずはありがとう言いってお母さんに教えてもらわんかったか?」

ははっ、と笑いながらそう言った、赤色のスカーフを巻いた男。指に挟んだ煙草から独特の香りがしてまた眉を寄せる。
すっぽりと何かが抜け落ちた頭に知らない単語が入り込んで、染み込んでいく。
オカアサン、オカアサン?誰、なに。ぐるぐると今の状況も理解できない頭が回る。なんだこれ、気持ち悪い。

「……オカアサンって、なん、だよ…」
「は?」

ぼやける視界、頭が痛い。頭の中からハンマーで殴られてるみたいな感覚から逃げたくて、隠れたくて。目を閉じた。

また、何かが無くなった。






「うーん、タンマツも財布も持って無いみたい…」
「はぁ?タンマツもないんか?」
「今時珍しーねー」

けらりと笑った亜麻色の髪の男、十束多々良は、珍しいっちゅうか、絶滅危惧種みたいなもんちゃうか。とグラスを磨く京都弁の男、草薙出雲のいるカウンターの前に座った。
二人の視線の先には、タンポポの様な黄色い髪の少年。見た目的には中学生か高校生くらいだろう。今は目を閉じて眠っている。

「まさか、キングが彼を連れて帰るって言うとは思わなかったかなー」
「こーんなぐうたらな王様にも考えがあんねんやろ。なぁ、尊?」

十束と草薙が少年から視線を外し、カウンターの端でグラスを揺らしている赤髪の男、周防尊をみる。
周防は地を這う様な低い音であ?と唸るように声を上げた。

「なんであの少年連れてこよー、言うたんやって聞いとんのや。いや、お前がゆわんでも連れてくるつもりやったけど」
「そーだね。いきなり倒れちゃうんだもん、びっくりだよ」

カツアゲの的にされていた少年を助けたのはつい先ほどの事。頬や腹、身体の至る所を殴られ、蹴られ、とされるがままになっていた時に周防達が通りかかり、鎮目町の中での諍いは見て見ぬふりは出来ないよね。と、十束が首を突っ込んだのが始まりだ。
少年にたかっていたチンピラどもは周防を見るたび一目散に逃げて行ったが、的になっていた少年は意識が朦朧としていたようで、草薙の言葉に、通常なら理解が難しい質問を投げかけて気絶した。それを放っておくわけにもいかず、溜まり場になっているバーに、十束が連れ帰ろう、と言いだす前に、周防が口を開いたのだった。

「…………」
「…だんまりかいな」
「あははっ、…でも、キングが珍しく自分から連れてこよう。なんて言ったんだ。彼には"なにか"あるんだよね」
「………さぁな。…おい、草薙」

フンと鼻を鳴らし、空になったグラスを草薙へと差し出す周防。草薙は呆れたように息をついて、おんなじのでええか?とグラスを受け取りながら問う。無言は肯定、と受け取り、なにも言わない周防に、かしこまりました。なんて仰々しくお辞儀をして、ボトルに入った琥珀色をグラスに注いでいく。
カラリ、氷が音を立てた。



《まだ、》目覚めない。


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