ケッペキショウ



「気持ち悪、きったねぇなぁ…」

水をたっぷり含んだ土の中に足を踏み入れてしまった時の様な音が、何度も何度も耳に響く。
眼下に横たわる人だったモノ、すでに息を引き取った男にぱっくり開いた穴を足で抉っていく。
耳を痛くさせる不快な声は聞こえない。聞こえない。

「は、ハッ、気持ち悪いなぁ。無様だなぁ。無残だなぁ。汚いなぁ…………、?…さるひこ?」
「……名前鉄臭い」
「そりゃあそうだよ」

するりと蛇が地を這うように、細くも逞しい腕が腹に回る。肩口に顎を置いて、少し曲げられた背に身体をぴたりとくっつけると、二人の体温が混ざり合う。
青で赤が隠れる。
他人のそれで汚れた手が頬を滑り、名前の口元が歪められる。
頬に付いた赤を見てやっぱり似合わないねと名前が笑った。似合わないのはどっちだ。

「きたねぇ…」
「うん汚い、汚いけどさあ、」

綺麗でしょ?そう言った名前の視線の先には、横たわった人だったモノ。あちこちに飛び散った赤が空気に触れてどんどん黒く濁っていく。伏見はどこが、と思ったがそれは口には出さない。
普通の人間からしたら、狂っているとしか思えない。しかし、花が咲いているようで綺麗。と名前は嬉しそうに言うのだ。

「帰ろ…帰ってシャワー浴びるだろ」
「さるひこが洗ってくれる?」
「ああ」

彼女の頬についた血を指で拭い、そこに口をつける。擽ったそうに目を閉じて笑う名前の視界に、歪んだ花畑はもういない。
自分だけを映すその瞳を覗き込み、伏見は満足そうに笑った。



-7-

prev / next

ALICE+