お姉ちゃんと十四松


金曜日の夜、終電間際の電車に揺られている飲み会帰り
流石花の金曜日。みんな考える事は同じのようで私と同じような酒気をまとったおじさん達の流れに乗り、ようやく最寄り駅の改札口から見慣れた街へたどり着いた
ほろ酔いで火照った頬を風が少し冷ましてくれる気がして人混みを抜けてから1人、小さく深呼吸をして酔い覚まししていると、よく聞きなれた声が耳をさす

「ねーーーさーーーん!」

その声が私に届くと同時かそれよりも早く、黄色い壁が至近距離で立ち塞がった
いつもなら少しくらいは驚いたかもしれないけれど、酒に麻痺した頭では驚きよりも見上げた先にあるよくよく見慣れた顔にへらりと顔が緩んでしまう

「あれー?十四松じゃーん。どした?どした?」
「姉さんのお迎えに来ましターッチアーップ!」

野球用語を混ぜた十四松特有の言葉使いと、元気なその姿に酔っ払いや会社帰りのおじさんやらお姉さんがチラチラこっちを見て笑っている
和むでしょう?かわいいでしょう私の弟
むふんと得意気に鼻を鳴らし、いまいち力の入らない腕を頑張って持ち上げて力こぶを作るポーズとってみせる

「それはご苦労さまっするまっする〜」
「はは!ねーさんマジ酔ってんね!」
「そーお?」

楽しそうに笑う十四松に、ほろ酔い程度だと思っていたんだけどなあと首を傾げると頭の重さに足元が与太ついてしまった
ふらふらした私を十四松の腕が支えてくれる
ああこれは確かに酔ってるみたい
そんな自覚をしていると、私の肩にかかっていた鞄がいつの間にか十四松の首へ移動して。私の右手は毎日振り回しているせいかバットタコだらけの硬い手のひらにギュッと握られていた

「さ、姉さんかえろ!」
「うん、かえろっか」

真夜中なのにお日様のような笑顔の十四松と手を繋いで駅前から歩き出す
私を導くように軽く手を引きながら歩く十四松に、いつの間にこんなに大きくなったのかななんて考えた
昔はいつだって私が弟たちの手を引いていたのに、あっという間に手をひかれるようになってしまったみたい

「姉さんの手、小さくなったっすね」
「十四松さんの手がおっきくなったんすよー」
「そーなの?」
「毎日野球してるからかな?手ぇかたいねえ」

私がそう言うと、十四松はハッと何かに気がついたような猫目顔になり慌てて繋いでいたはずの手を離してしまう
あっという間にいつもの黄色い袖の中に引っ込んでしまった十四松の手
弟と手を繋いで歩くなんて久しぶりで嬉しかったのに理由もわからず急に消えた体温に寂しくなり眉がハの時になるのが自分でもわかる

「なーに?」
「俺の手かたいから、姉さんの手に怪我させちゃうかも」
「お姉ちゃんはそれくらいじゃ怪我したりしません!手つないでかえるよ」

優しい気遣いをみせるかわいい弟だけど、姉は姉というだけで我が儘をする権利がある
弟の意見は無視をして、袖の中に引っ込んだ手を袖の中から引っ張り出して逃がさないように指と指を絡めてギュッと強く手を繋いだ
驚いたように目をまばたかせていた十四松だけれど、少し照れたように笑ってから絡めた指に少しだけ力を込めて握り返してくれた

「へへ、姉さんと手つなげて嬉しい」
「お姉ちゃんもうれしい!帰ろ十四松」
「うんっ」

小さく腕を振りながら上機嫌に歩き出す私たちを道行く人たちは少し笑いながら見送ってくる
仲の良い私たちが羨ましいんだと思う
それか可愛い弟が羨ましいかだな
くふくふ悪う私に気づいた十四松は姉さん楽しい!?なんて散歩中の犬が顔色を伺うように聞いてきた
うちの弟ワンコ可愛い

「たのしーよ。十四松といるといつもすっごく楽しいよ」
「へへー、俺も俺も俺もね!姉さんといるとすっげー楽しいよ!」
「ほんとー?お姉ちゃん嬉しい」
「ホントだよ!俺姉さんといるのすっげー好きだよ!」

満面の笑みでそう言ってくれる弟が可愛すぎてお姉ちゃん胸が苦しい。世界ありがとう。いや、松代と松蔵ありがとう。素敵な弟を6人もくれてありがとう。
私が圧倒的感謝を捧げていると、十四松がさっきより少しだけ声のトーンを落として話し始める

「あんね。俺姉さんのことめちゃめちゃ好きで、すっげー大事だからね。ホントはこうやって夜遅くなったりすんのヤなんだー」

可愛い弟に痛いところを突かれてしまい言葉に窮した
十四松に心配かけるのは良くないし、お酒を控えるべきという気持ちと。でも飲まなきゃやってられない!という正直な気持ちが胸のうちでせめぎ合っている
すぐに答えてあげられないお姉ちゃんでごめんね
どう答えるべきかと悩んでいると、でもね!という十四松の明るい声が吹き飛ばす

「こうやって迎えにきて、姉ちゃんを独り占め出来んのは楽しみなんす」

てへへと伸びた黄色い袖を照れくさそうに口にあてて笑う5番目の弟
いつも元気で、テンションが高くて思考の読めない狂人じみた十四松
素直で明るくて、人を笑わせるのが好きな、みんなが楽しいのが好きな調和を重んじる優しい子
そんな彼の内緒話に打ち抜かれない姉なんて松野家にはいません

「もー〜〜十四松十四松十四松ぅ〜!」

空いている方の手で、十四松の頭をぐしゃぐしゃになるほど撫でまくる
気持ちの荒ぶるままにかわいいかわいい私の弟をかわいがり倒してやる
十四松本人もわひゃーとか言いながら楽しそうにされるがまま撫でられているし、もう構わないでしょう。かわいいのが悪い!お姉ちゃんかわいい弟を構わずにはいられないの!お姉ちゃんだから!!

「十四松だーいすきよ!」
「俺も姉ちゃん大好きっす」
「両思いだねー」
「へへ、姉ちゃんすき!」
「お姉ちゃんの方が十四松のこともーっと好き」
「俺の方が姉さんの事もっともっと大好き〜」
「お姉ちゃんの方が好きですー」
「俺だよ!」

その辺のバカップルなんて目じゃない程イチャついたら会話をしながら、十四松と家を目指して歩き出す
弟たちに心配をかけるのは良くないかもしれないけれど、私には甘ったれの弟が6人もいるんだから独占して甘えさせられる機会をつくる為にも仕方ないと悪癖を肯定してしまおう

「姉さん姉さん、ちょっと遠回りして帰るのどーっすか」
「いいよ〜。お散歩してかえろ」
「やったー!!」

ブンブンと生えてない尻尾の代わりのように繋いだ手を勢いよく振る十四松に翻弄されながら
成人を過ぎても甘え盛りのシスコンな弟を、ベタベタに甘やかすことに決めていつもよりゆっくりと歩くブラコンな私
お似合いの兄弟なんじゃないかなと、斜め上の嬉しくて仕方ないって顔をした十四松を見ながら考えた
甘え盛りの弟があと5人いたのを思い出したのは、満足顔の弟と帰宅した後のことだった
可愛い弟ばっかりでお姉ちゃんは今日も幸せです


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