お姉ちゃんとおそ松


平日も休日もない毎日が自由時間な俺たちニートの優雅な時間が、末弟トド松のスマホがピロンだかチャランだかって音をさせると同時に崩れた

「あ、姉さんからお迎え要請きたよ」
「げっ」
「なんだよー。携帯いじれるなら帰って来れるんじゃないの?」
「……姉さん足に来るから、歩けないんじゃない?」
「お酒いーなー」
「フッ……迎えついでに飲みに行くか?」

腰のおもたーい俺たち六つ子は姉からの緊急性もない回収要請もただの話のタネなわけで
カラ松の魅力的な提案も全員分の財布をひっくり返し、ちゃぶ台の上に転がった寂しすぎる小銭やらドングリやらクーポン券から、まあ普通の飲み屋には行けないから諦めるしかない
でもなあー!酒飲みたいのに飲めないとなると飲みたくなるし。チビ太んとこは最近行き過ぎて今日行ったら追い返されそうだし

「ねー、誰が行くか決めてくんないと姉さんに返事出来ないんだけど」

俺が悩んでるっていうのに、トド松が何か自分勝手なことを言い出した。まあ、自分勝手なんて俺たちの通常運転なんだけどねー
誰が行く?みたいな顔で目配せしだした弟たちを見ながら、ふと天才的なヒラメキが俺におりてきた
やっぱり俺ってば天才!さっすがカリスマレジェンド

「なあなあ!迎えに行った奴が酒買って帰ってくりゃいいじゃん」
「だから、酒買う金もないっつってんだろ」
「お迎えに行くんだよ?酒買う金くらい頂いちゃってもよくね?」
「ちょっとおそ松兄さん」

親指と人さし指でお金マークを作る俺を、トド松がたしなめるような響きの声をかけてくる

「どうしてそんな素敵な事が言えるの?マジ長男頼りになるわ〜」
「だろー?」
「おい!おいクソ松ども!!」
「なんだよチョロ松、お前は酒いらないの?1日の終わりに飲むお酒最高だよ?機嫌いい姉ちゃんならつまみも買ってくれると思うよー?」

自称マジメ常識人チョロ松がいつものように噛み付いてきた。まあそんな事言ってもね?俺の話に音を立てて生ツバ飲んでるあたり正直だよね〜

「ハイハイハーイ!俺チーカマがいいな!チーカマ!」
「フッ……俺にはウィスキーを、ロックで頼むぜ」
「はいはい、麦茶なら冷蔵庫に入ってるから」
「え……?俺に酒は……?」
「姉さん猫缶も買ってくれるかな」
「買ってくれる買ってくれるよ〜。んじゃ、買って欲しいものがある奴が迎えに」
「ちょっと待って」

あれが欲しいこれがいいなんて始まった弟たちをたきつけようとしていた所へ、チョロ松の緊張を含んだ静止がかかる
くそ、このまま丸め込める予定だったのに。どーもチョロ松は俺に厳しいんだよなあ!
そんな内心を顔に出したら即座に蹴り出されるから、俺は何にも企んでない何にも知らない顔でチョロ松を見返す

「どしたの?チョロ松」
「うるせぇ、クソ長男。なにがどうしたのだ。まんまと丸め込もうとしてやがんな」
「えぇー?いきなり罵倒すんのやめてよ!お兄ちゃん心臓キュッてなっちゃうじゃん」
「お前の剛毛ジャングルな心臓なんて多少の事じゃとまんねーよ!」
「はは!兄さんジャングルなの!?」
「やだ!アンタたちお兄ちゃんをどんな目で見てるのよ!」

デリバリーコントで女の子役をやる時のようにしなをつくって冗談で話を流そうとしてみるも、弟たち全員に俺の企みに気付かれてしまったらしく冷たい10個の目が俺を見つめてくる
これ以上ふざけるのは得策じゃないと、ため息を吐いていつものように胡座で座り直して場を仕切り直す

「わーかったよ。じゃあジャンケンな」
「……何言ってんの。おそ松兄さんが行くんだよ」
「はぁー!?なんで!」

ボソリと小声なくせに通りの良い4男がどうしてか俺を名指ししてくる。しかも他の松たちも当然だという顔で頷いている始末
いやわっけわかんないからね!全然納得出来ないから!

「なーんで俺が行くハメになるんだよ!」
「アンタ明らかに迎えに行く回数少ないから」
「……そういえばそーかも」
「ふむ。よく気がついたな一松」

そのうち気付かれるとは思ったけど、予想よりかなり早かった。そういえばお家大好き兄弟大好きな4男が兄弟のことに気付かないはずなかったか
だからってここで素直に認めたら強制的に行かされる。冗談じゃない!

「偶然だろ?てかお前ら姉ちゃんの迎え行くの好きじゃん!今日も行ってきたらいいじゃん!」
「今日寒いし」
「気分じゃない」
「めんどい!」
「フッ……行くなと運命が囁いている」
「いいから、早くおそ松兄さん行ってきて」

チョロ松がしっしっと犬を追い払うような仕草で俺を追い出しにかかる
何なの!?俺長男だよ!?お前らの一番上のお兄ちゃんだよ!?もっと敬って尊敬して優しくしても良くない!?

「え?嘘だよな?」
「「「「「いってらっしゃーい」」」」」

行きたくなくてごねようと思っていると、いつもギャースカ喧嘩するくせにこんな時ばっか息を揃えて、いつも履いている俺印の赤いスニーカーと一緒に玄関の外に放り出された
追い出されてたまるかと玄関がしまる前に扉に足を挟んでやろうとしたものの、玄関の隙間には一松がハサミを構えて待機している
足をねじ込もうものなら容赦なく刺される!
俺が躊躇している間に無情にも玄関の扉は音を立てて閉じられ、ご丁寧に鍵までしめられた音がする

「いってこいおそ松」
「チーカマ」
「猫缶」
「僕プレモル〜」
「つまみと酒適当に。早くね」
「ふざっけんなお前ら!くっそ……覚えてろよ!酒全部振りまくってのめないようにしてやっからな!」

スニーカーに足を突っ込んで、怒りを発散させるようにズンズンとがに股で歩いて行く
しばらくそうやって歩いて、家から俺の姿が見えなくなった頃にスニーカーの足がぴたりととまる。流石俺の足、いつ裏切るともわからない兄弟なんかよりよっぽど俺をわかってくれてる
あー、ほんと

「行きたくねーなあ」

こぼした声は思いのほか大きくて誰もいない夜道によく響いた。少ない街頭が照らす夜道は確かにほの暗く、こんな道を女1人で歩かせるなんて冗談じゃないのはわかる
兄弟の誰もが迎えに行くのやめようとは言わず、誰かに押し付け合うのは姉が1人で帰ってくるのは許せないからだ。しかも酒癖が悪く、酔うとふだんからパッパラな頭がさらにゆるくなるらしく、しらないオッサンに飴でも貰えばあっさりどこぞのピンクホテルへ連れ込まれるんじゃないかという勢い
だからどんなに嫌でも何でも、どっかで時間を潰して誤魔化すわけには行かない
進みの遅い足を励ましながら普段より数倍の気力でどこぞの飲み屋へ姉を回収へ向かう

「何が悲しくて手も出せない惚れた女を回収しなきゃなんないんだっつの」

迎えに行かないのは、行きたくないのは面倒だからじゃない
とち狂って実の姉に惚れてしまった自分を助けるための救済処置なだけだ
でもそれを兄弟たちに説明できるはずも無いから、こうして肩を丸めて夜道を歩いている

住宅街を抜けて、騒がしい駅前の繁華街まで出てくるとすれ違う人もかなり多くなってきた
肩を組んだサラリーマンが陽気に鼻歌なんて歌いながら歩いていくのを見ると、楽しそうで羨ましいとも、ああいうオッサンが俺たちのようなニートの今を照らしてくれてんだよなあだとか思ったりなんかしちゃう
大衆居酒屋の列挙している駅前の一角を抜けて、オッサン御用達の立ち飲み屋街を練り歩く
ベンチが並び、店ごとの仕切りはこ汚いビニール製のカーテンくらいなもの
それも人が出入りするからほとんど開け放たれていて、どこからどこがどの店なんだか飲んでる奴らもわかってなさそうな状況を外からお客を見てうちの姉が混ざり込んでないか確認する

「おっちゃーん!おっかわりいィ」

ひときわ陽気な声が耳をつき、覗いていた店のちょうど向こう側にある串焼き屋の暖簾をめくれば見慣れた姉が赤ら顔でへらへら笑いながら見知らぬオッサンと肩を組んでいる
姉の肩に小汚いオッサンの腕がかかっているのを見ると腹の内から普段抑えているものが膨れ上がりそうだ
なるたけ表面にそれを出さず、大股で近づき素早くオッサンとアホ姉を引き離した

「ん?あ!おそ松だあ〜」

すでにべろべろに酔っている姉は俺の顔を見ると普段の数倍はゆるい顔でそれは嬉しそうに笑う
好きな相手にそんな風に笑顔を向けられて嬉しくないはずもない。だけど、この人は弟が相手なら誰に対してもこんな顔をするんだ。俺だからじゃない
掴んだまま抱き寄せてしまいそうな腕を、なんとかなけなしの意志の力で引きはがす

「なんだ?ネーチャンのコレか!」
「いやーんそう見えるう?」

べろべろに酔ったオッサンが親指を突き立てて下品に揶揄してくる。人のこと言えるほど上品じゃないけどね?自分でわかってるけどね!
しかもアホ姉は何でか妙に嬉しそうな顔で頬に両手をあててくねくねとしなをつくりだした
あーも〜、なんっにも考えてない酔っぱらいの言葉に一喜一憂させられんの本当に疲れる

「おとーとだよ!弟!ほら、姉ちゃんそっち詰めて。おっちゃん、ビール頂戴」
「おー。弟くんもいける口か!いいぞいいぞ飲め飲め、なー?」
「へっへー、んじゃオッサンの串焼きもらっちゃってい?」
「だははは!食え食え!!」

上機嫌なオッサンから串焼きを分けて貰いながら、くふくふ笑ってる姉ちゃんを壁際に追いやる。何なんだろねこの人は気持ち悪い

「おとーとなんだけどお、おねーちゃんがおそーくなるとお迎えに来てくれるおとーとなの。もうね、彼氏みたいなもんよ!」

店のおっちゃんから受け取ったビールを思わず吹き出した。何を言ってるんだこのクソ姉は!
何も刺さっていない焦げ目のついた竹串を手に、カラ松から輸入したのかせらびー!だとか言ってきゃらきゃらと笑っている
いや、こっちは笑い事じゃねーから!ふざっけんなよマジで

「なんだなんだー。やっぱデキてんのかあ!」
「んっふふ、そうかもお。いやん禁断の恋〜! 」

かなり酔いの回っている隣のオッサンと、ベロベロに酔った姉ちゃんが何についてなんだかビールジョッキをガツンと打ち鳴らし乾杯している
俺といえば目をすわらせてビールのこぼれた口の周りを拭うのに忙しい。こういうとこが嫌なんだよこの人迎えに来ると
隣で美味そうにビールジョッキを傾けている姉のジョッキを奪って、そのまま泡のついた唇へ口付けてやろうか
楽しいことだけしていたい、何の苦労もしたくないニートの俺は、そもそもが我慢がきくようにできてない
導かれるように右手が姉のビールジョッキを奪い取る

「あ、おそ松なにすんのー」

奪い取られたビールジョッキを悲しげに見つめる姉の唇が、今しがた飲んでいたビールに濡れて艶めかしく見え、思わずゴクリと生唾を飲み込む
ああ、もう!こんなオッサンみたいなことしてるような女に欲情するとか!ほんっと!
湧き上がる衝動を誤魔化すように、姉から奪い取ったビールを俺が一気に飲み干してしまう

「あーーー!とったあ!」
「ぶはー!はいもー、うるさいよ。次は水ね水」
「いーやー!」
「はっはっ!ねーちゃん彼氏の言うことは聞くもんだぜ」
「彼氏じゃないんで。弟なんで!そこ間違えないで貰えます?」
「おそまつー、お酒のませてよお」
「だめっ!はい、水!いいから飲んで飲んで」
「うぅ〜」

店員のおっちゃんが気をきかせてすぐに出してくれた水を姉に押し付けて、渋々グラスに口をつけるのを確認する
ほんと面倒くさい。自慢じゃないけど、六つ子の長男って言っても弟たちの面倒なんかみたことないよ俺
面倒見のいいのが下にいるから俺はいつだってフリーダムにやれてたのに
この人だけ。この姉だけは俺に世話を焼かせてくる
不細工な顔で水を飲んでる姉を肴に自分で注文したビールを流し込む

「っかー!美味い!サイコー」
「ははは!兄弟だなあ。ねーちゃんと同じ事言ってらぁ」
「ははは」

隣のオッサンがそう言って肩を組んできた
アンタさっきは人のこと彼氏だとか言ってたのにもう弟か、なんて自分で訂正しておいて自分でガッカリしたりして
ほんと、救えねーわ
腹いせにオッサンの皿から肴を横取りしながら、ビールを何杯か飲む頃には姉の酔いも随分冷めてきたのがわかる
上機嫌に笑ってる時が最高潮。少し酒が抜けると眠たげにぽやんとし始める
こうなればある程度自力で歩くことが可能になっているはずだ

「姉ちゃんも歩けそうだし、そろそろドロンしまーっす」
「おう!気ィつけて帰れよ〜」
「お姉さんによろしく!」
「またなー」

姉ちゃんの肩を押して店から出ていくと、店のあちこちから声が掛かった。どんだけあの店で騒いでたんだこの人
眠たげな目は一松のように半目になっていて、今にも閉じてしまいそうだ。繁華街を抜けるまでは仕方ないと、姉の手首を掴んで帰り道を先導するしかないと立ち尽くす姉に声をかけた

「姉ちゃん、帰るよ」
「うーん?うん……」

返事は怪しいが、まあ引っ張ればゆっくりでも歩き出すからそれでいい
時折同じような酔っぱらいにぶつかりそうになり、姉を避難させるために少し引き寄せて盾になれば寄りかかるものが欲しいのか擦り寄ってくる姉に心臓は悲鳴を上げる
人がらしくもなく理性を動員してブレーキをかけてるっていうのに、目の前の女は全力でアクセルを踏み抜いてくるから厄介だ
姉の手首を掴んでいる手がやけに熱いのは、俺もビールを何杯か飲んだからで、いつもよりはやい脈拍も、熱を持つ頬もアルコールのせいだ
行きの倍くらい時間をかけて駅前の繁華街を抜ければ、街頭がポツポツと立ち尽くす見慣れた住宅街にさしかかる
ようやく人混みも消えて、姉の手首から手を離せる
なけなしの理性が勝ったことに安堵しながら、掴んでいた手首を離せば待ってましたと言うように姉の両手が手を離したばかりの俺の腕に絡み付いてきた

「……ちょっと、離してくんない」
「いーや」

ぎゅうぎゅうと、本人は力を込めてるつもりなんだろうけど俺からみたら大した力でもなく
振りほどこうと思えばすぐに離せそうな腕力で俺の腕を抱きしめている
ハッキリ言えば俺の腕に姉ちゃんのおっぱいが押し付けられている
やわらか〜あったかー
全神経がそこに集中しそうなのを、ブルブル震えがくるほど力んで散らす
ほんっとやめて!ほんっとに勘弁して!?
深くため息を吐いて湧き上がる衝動やら息子を落ち着かせ、姉の頭をつかみ後ろへ離して腕を外させる。踏ん張ろうとしてたみたいだけど、深酒してる姉は踏ん張る力なんか全くなく、すぐに腕は開放された

「ったく、ふざけてないではやく帰んなきゃチョロちゃんに怒られるよ」
「……チョロ松は私には怒んないもん」
「いや俺が百倍くらい怒られるんだって」

行くよと数歩あるきだしても、姉はその場に立ったまま動く気配がない
雰囲気からして、何かへそを曲げているぽい
あえて気づかないフリをして帰っちゃうよーと声をかけるも失策だったらしくその場にしゃがみこまれてしまった
ちょっと流石にイラついてきた

「……あのさぁ」
「おそ松お姉ちゃんのこと嫌いなの?」
「……は?」

声に思わず怒気を含ませて声をかけるも、予想外の姉の言葉に怒りが霧散してしまう
嫌いになんてなった記憶はありませんけど

「おそ松、今日全然笑ってない」

お姉ちゃんといるの嫌なの?、だとか言ってしゃがんだままうつむく姉に俺は一体どうしたらいいのか
酔っ払ってるくせに人のことよく見ているそれが嬉しいだとか思ってしまってどうしようもない
いっそのこと告白でもしてやろうかなんて考えも頭の端にはチラついて
でもあの家を壊すようなマネを俺が出来るはずもない。だから、俺はこの気持ちを言うわけにも悟らせるわけにもいかない
深くため息を吐いて、しゃがみこんでいる姉の方へ距離を縮めていく
アスファルトと砂利が擦れてざりざりと音を立てた

「姉ちゃん」
「……」

うつむいた姉の視界に俺のスニーカーがうつるだろう距離まで近付いて声をかけても、姉はしゃがみこんだまま動かない
まさか泣いてないよなと姉と同じ目線になるよう俺も道端にしゃがみこんで、その顔を覗き込む

「姉ちゃん」
「……っ」

覗き込んだその顔は涙に濡れてはいないものの、泣き出す寸前の酷いものだった
まったくこの人は弟が好きすぎる。嫌われたかもしれないなんて、それだけで泣き出す程度には好かれていると
それだけでくすぐったい程嬉しいのに、締め付けられるように苦しい
狡くて卑怯な女だと思う
自分の膝を抱えていた姉の手を両手でとり、笑顔をつくって子供に言い聞かせるようになるたけ優しく声をかける

「ほら、笑ってるだろ?」
「……けど」
「ほら」
「……足りない。もっと」

笑って優しくして、なんて。涙でまくをはった目で強請るような顔をして、そんなことを言う
どこでそんなの覚えてきたんだよ
無意識に犬歯が唇の内側を噛んで、口の中に血の味が広がる
ゾクリと背中が総毛立ち、反射のように両腕が目の前の姉をかき抱く
好きだ
馬鹿みたいに、この人が
血のつながりがあるこの女が、頭がおかしくなるくらい欲しい
加減できない力で抱きしめて強く目をつぶれば、涙が滲んできた
どれくらいそうしていたのか、腕の中で姉が身じろぎして痛いと訴えてきたことにハッとして慌てて姉の肩を掴んで引き離す

「お、おそ松?」
「……こーんなに愛しちゃってるってば!な?」

いつも通りに、軽くふざけた口調でウィンクをしてみせれば驚いていた様子だった姉に笑顔が戻る
知られてしまったかと動揺してはやる鼓動が、むしろ頭を冷やしていく
このまま何事もなく振る舞えば酔いの回っている姉には何も不審がられることは無いだろう

「ほら、今度こそ帰んなきゃもうアイツら待ちくたびれてるよ〜?」
「うん、帰ろうか」

立ち上がり、姉が立ち上がるのに手を貸して、触れた手はすぐに離した
姉より1歩だけ前を歩いて家への帰路を先導する
伸びた影を姉がふむ程度の距離が、姉と弟の距離だと言い聞かせながら夜道を進んでいった
後ろを歩く姉の頬にアルコールのせいじゃない赤みがさしていることに、前を歩く俺は気がつく事は無い
姉と弟の距離は縮まない
縮まないままでいい


| top |

ALICE+