お姉ちゃんとトド松
少し遠くまで買い物に出かけた帰り道
いつもなら行かない所まで足を伸ばしたせいで少し疲れたけど、女の子にモテそうで僕に似合いそうな可愛い服が買えたから疲れより満足感が大きい
夕飯もとっくに終わっているような時間、チカチカと点滅する街頭が暗い夜道を微かに照らしている
「は〜、お腹すいたけど絶対に夕飯残ってないだろうなあ」
外で食べてくる予定をたてていたけど、マネキン買いをしたせいで軍資金も底をつきてしまった
母さんか姉さんにねだれば何か作ってくれるかなと考えながら帰り道を進んでいく
ふと家と家の間の狭い路地裏に誰かがいるのが視界に入った。ゴミ箱の上に誰かが腰掛けているのが見える
一瞬おばけでも見てしまったのかと焦ったけれど、どこかで見たことのあるパンプスを履いた本物の足が見えたからきちんと生きている人間だったみたい
なんだ良かった。20歳過ぎまでおばけをみなければ一生みることはないっていう話を信じてるんだから
このまま僕の人生におばけなんて関わらずにいてほしいよ本当
「……ん?」
一瞬ビクついた気持ちを立て直して進行方向へ視線を戻し
ひっかかりを感じてもう一度路地裏へ視線を戻す
どこかで見覚えがあると思った、そのパンプスは確かに僕が毎日のように見ているそのものだったらしい
青いポリバケツの上に体重を乗せて狭い路地の壁に寄りかかって眠りこんでいる人は、実の姉だった
「なんだ姉さんか」
そりゃ見覚えあるはずだよね〜
玄関で毎日見ている靴なら見覚えなんてあって当然だった
自分の中で感じた引っ掛かりを解消できて、安心して家に帰れると思った僕だけれど
さっき以上の引っかかりに路地裏へダッシュで引き返した
「はあ!!!??何してんのこの人っっ!!!」
引き返した僕が見たのはさっき見た光景と代わらない
酔いつぶれてゴミ箱の上で眠りこける実の姉という、地獄のような現実だった
最悪だよ!こんな女が肉親とか、冗談にもならないよ!!
鞄を胸に抱きしめながら、アルコールの入った赤い顔ですやすやと健康的な寝息をたてて眠っている
信じたくないし、嘘であって欲しいけど、見覚えのありすぎるこの顔は姉で間違いなかった
あまりにも残酷な現実に思わずその場で膝をついてしまう
「嘘でしょ……。女捨てるどころの話じゃないじゃんもうヤダー!」
こんっっな可愛い僕の実の姉がこんっっっっなクソみたいな女だなんて世間に知られたら恥ずかしくて外歩けない
そうだ、おいて帰ろう。これは知らない人だ。
嘆いていた気持ちを切り替えて、落としたショップの袋を拾い上げたら回れ右して家を目指す
道に座り込んじゃったからパンツが汚れちゃったし、明日は今日買ったコーデでどこかスイーツでも食べに行こうかな
何なら前に雑誌で目をつけてたお店に出かけるのもいいかも。ちょっと軍資金が心元ないけど、まあウィンドウショッピングも楽しいしね
そんな風に明日の楽しい予定を考えながら道を歩き続けるけど、汚れたのれんの垂れ下がった店の前に、お酒を運ぶ用だろう台車が止まっているのに気がついて思わず足が止まる
「………………。」
台車を見つめながらしばらくその場でじっと考えこむ
熟考して、悩んで、致し方なく、青い色ののれんをくぐりお店の人に声をかけた
「すいませーん、表にある台車少しお借りしてもいいですかー?」
********
「姉さん、姉さんってば」
「ん?んん〜……とどまつ?」
結局致し方なく、だらしない姉さんのところまで引き返してきた優しいまるで神のような僕は
さっきまでと微塵も変わらず眠りこけていた姉さんを揺さぶり起こす
お酒がはいって赤らんだ顔や呂律の回らない口調が幼くて可愛いように思えなくもないけど、状況がすべてを殺している
こんな女を好きになる男が存在するなら奇跡だよ、本当
意識が覚醒してきた姉の腕をとり、軽くひっぱり上げてとにかくポリバケツに座り込んだ状態から脱出させることにする
「ほら立って、少しくらいなら体重あずけていいから、こっち」
「ん?ううん……おねーーちゃんちょっとだめかも」
「ほんっっとうにね!見ればわかるし、姉さん冗談じゃなく駄目だね!」
「はははは!とどまつ〜、めっちゃうけるね」
「何にもウケないから。もー本当信じらんないよ最悪だよ」
酔っ払って足にまったく力が入っていない姉をどうにか動かさなきゃならない
酒臭いのを我慢して、担ぎ上げるように姉のうでを肩にまわしてから腰を抱いて引きずり上げた
女の子を抱き上げてるのが信じたくない。漂ってくるのはアルコール臭とどこかで浴びたのか煙草のヤニ臭。
ほのかなシャンプーの香りなんてどこかで無くして来てしまったようだ
もはや悲しくなりながら、腰を抱いた腕に力をこめて何とか姉を運搬する
クソナルシストで自分の体作りに熱心な次男や、毎日バットを振り回す十四松兄さんと違って、僕は体を引き締めたり山登りのための体力作りを中心にしているから単純な筋力には自信がない
全体重をかけてくる姉を持ち上げて引きずるくらいならわけないけれど、このままずっと家まで連れ帰るのは面倒だし疲れるし、絶対やりたくない
「ほら姉さん、この上乗って」
「ん?んんん〜」
また意識を飛ばしかけている姉を促して、ついさっき飲み屋で借りてきた台車の上に姉を乗せた
これなら力のない僕でも姉さんも連れて帰れるし、何より疲れない!僕ってあのクソニートたちと同じ遺伝子とは思えないほど頭いいよね。
台車の上でぐにゃぐにゃになっている姉を座らせて運搬用のハンドルに手をかける
「じゃあ行くよ姉さん」
「はあーい」
一言声をかけてみれば、一応聞こえていたらしく良い返事があった
でも絶対分かってないんだろうと眉間にシワがよるのを自覚しながら、落ちて怪我しても知らないなんて考えて台車をおして歩き出す
「もー姉さんお酒ちょっとは控えなよ!あんなとこで眠り込んで、いい加減お財布とか盗まれるよ!」
「だあ〜いじょうぶ!鞄はず〜っと抱きしめてたからあ、盗まれたりしてないっ」
「そうじゃなくても、喧嘩に巻き込まれるとか。変な人とか。特殊な趣味の人とかもいるんだからね!」
「ううん、だいじょうぶだいじょおーぶ」
ゴロゴロと台車の車輪がアルファルトをけずるような音をたてて進んでいく
台車に乗った姉は機嫌良さそうにへらへら笑いながら僕の忠告を適当に聞き流す
人が一応は心配して言っているのに、全く反省する気配がないと腹が立ってくる
「次はぜっっったいに見つけても連れて帰らないからね!」
「え〜?とどまつはあ、ぜ〜ったいおねえちゃんつれてってくれるよ」
「はあ?」
「ぜったいだよ。おねーちゃんはおみとおしだ」
何が楽しいのかくふくふ笑いながら絶対だとか言い切られる
何だそれ
何だその、根拠なし意味不明の、絶対
酔っ払いのたわ言だし、機嫌がいいだけで適当な事をいってるだけかもしれない
だっていうのに、恥ずかしいことに所詮この人の弟な僕は、姉からの絶対的信頼が嬉しくて仕方ない
僕はアルコールなんて一滴も飲んでないっていうのに、どんどん顔があつくなっていくのが分かる
だけど、それが物凄く不満でもあるからむっつりと拗ねたような顔をしたままに顔が赤くなっているだろう
「っっもーーー!何なの姉さんは!もー!むっかつくなあ!!」
「うへへへ、おねーちゃんはあ〜とどまつのことなんかぜーんぶしってんのよお」
「うるっさいよ!酔っ払い!馬鹿!アル中!肝臓やられて死ぬからねっ!!」
「んふふふふ、へーきへーき〜」
へらへら笑っている姉がムカついて、大好きで仕方がない
だって僕はこの人の弟なんだからしょうがないじゃないか
「あ、ごめんトド松ちょっとまって気持ち悪い」
「さいっっっっあくだよ!!!!!」
たまに本気で消えて欲しいけどね
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