お姉ちゃんと膝枕と一松


ぽかぽかと温かい陽射しが気持ちの良い窓際で、遊びに来た友達を膝にのせながらその毛並みを堪能している午後
友達は機嫌良さそうに喉を鳴らしながら僕にお腹を見せてリラックスしてくれている
そんな姿が可愛くて、いつもは仏頂面をしている僕も自然と頬がゆるんでいるのが分かる

「ふへ、にゃーなの」

低く気持ちの悪い声でも、膝の上の友達はご機嫌に可愛らしい声で返事をしてくれる
やっぱり猫が最高だ
そんな極上の時間へ侵入者が現れた

「いちまつ?」
「おそよう。姉さん」
「うん……」

昼食も終わった時間にようやく起きてきた松野家長女
パジャマ変わりにしている首の伸びたTシャツのまま、寝ぼけ眼で辺りを見回している

「一松だけ?」
「みんな出かけてる。ご飯なら冷蔵庫に入ってるはずだけど」
「うぅん」

僕の言葉に返事なのかあくびなのか分からないような言葉を返す姉さん
昨日も遅くまで起きて何かやっていたようだし、寝不足なのかもしれないなと
うちで唯一の社会人は大変らしいなんて考える
まあ、これで姉の負担を減らすために僕も働こうなんて微塵も考えないのがクズたる僕たちらしいんですけどね
僕がそんな事を考えながら、友達の毛並みを堪能しているところへ
いつの間にか姉さんが距離を縮めてきて、僕のすぐ目の前に座り込んで膝の上の友達をじっと見つめている

「うわ。なに」
「うん…いいなぁって」
「ああ、姉さんも触らせてもらう?」

姉も猫が好きな人だった
そう思い出して、友達の額を撫でて良いかどうか確認しようとしたけれど
それより前に僕の言葉にストップがかけられる

「いや、そうじゃなくて」
「そうじゃなくて?」
「うん」

寝起きだからか、要領を得ない姉の言葉に首を傾げるも
まだ半分寝ていそうな姉はその場から立ち上がって、台所の方向へのたのたと歩いていってしまった
何がしたいのか言いたいのか、いまひとつ分からないけれど
まあ寝ぼけているんだろうとあまり気にせず、友達の喉をくすぐってあげる
ぐるぐると上機嫌な音が可愛い
そうしていると、友達がニャアと鳴いて僕に何かを訴えかけてきた
促されるままに顔を上げると、こっちへ戻ってきていた姉がいくつか煮干を手に僕らの目の前に正座をする

「?」

どうするつもりなのかと、姉の行動を見守る僕と友達
姉は僕らの視線をうけながら、黙々と手に持っていた煮干をその場に並べ始めた
合計6つの煮干が、等間隔に並べられる
友達は煮干のにおいに落ち着かずふんふんと鼻を鳴らし始めた

「これで、そこ譲っていただけませんか」
「…ん?」

僕ではなく、友達にそう話しかける姉さん
そこ、と言って指差すのは今友達がゴロリと伸びていた僕の膝の上で
友達は姉の言葉に返事をするように、にゃあんとひと鳴きしてしなやかなその体を起こして僕の膝から離れていってしまう

「あ」
「ありがとー」

尻尾をゆるりと揺らして、姉が並べた煮干に寄っていく友達と入れ替わるように
今度は姉が僕の膝の上にごろりと頭を預けてきた

「……えぇ?意味わかんねーんだけど」
「取引きだから」
「俺の意見は?」
「きいてなーい」

枕に人権はないらしい
きゃらきゃらと上機嫌に笑う姉は、何が楽しいのかゴミの膝の上に頭を落ち着けている
猫よりも人の頭のほうが重いんだななんてどうでもいい事を考えながら、姉のやる事に逆らう気も起きない俺はされるがまま。使われるがままに座っておく

「一松、一松」
「んあ?なに」
「お姉ちゃんに耳かきしてよー」
「…やだよ。突き刺しそう」
「ん〜ふふふ、確かに」

人の耳掃除なんて、一歩間違えたら病院送りだろう
不器用な僕にできると思えずそういえば、その通りだと何が楽しいのか笑っている姉
全くこんなゴミの膝の何がそんなに良いのか
さっきまで寝転んでいた友達と同じように上機嫌に、僕の膝で寝転んで楽しそうに喋りかけてくる

「一松はちょっとぷにってるから寝心地いいわ〜」
「ひひ、俺の皮下脂肪が役に立つ日があるとはね」
「んあ〜、寝そう〜」
「寝たら転げ落とすよ」
「えー、弟が優しくない」
「優しいのが良ければ他の松をあたれば?」

いるだろ。二番目とか、姉に妙に甘い三番目とか。
そう思って言ったのに、姉はしぱしぱと目をまばたきしてから猫のように目を細めて笑う

「うちにはお姉ちゃんに優しくない弟なんていないのよ?」

ねー?なんて言って僕の両手をとりにゃんにゃんと遊びだす姉
姉さんの発言に、思わず言葉をなくしてしまったものの
その言葉に全く反論が出来ないのが、松野家の弟として虚しくもあり
それが当たり間のことだと納得してしまってもいる
姉のいる弟の立場なんて、どこもこんなようなものなのか
うちが特別に姉に弱い家なのかは分からないけれど、もう今更その力関係が崩れるとは思えない

「……誰か帰ってきたらどいてもらうから」
「うーん?考えとく」

にこにこと上機嫌の姉が誰が帰ってきてもどく気がない事はこの返事で分かってしまった
ひとつため息を吐いて、色々と諦めておこう
こんなゴミに絡んで姉も何が楽しいのか
僕に寄ってくるのは猫と、この姉くらいのものだろう
僕だって猫と姉と一緒にいるのは全く苦にならない
だから、これでいいのだ。なんて、らしくもなく頬が緩むに任せて笑った



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