\コサック/
[女主/転生/not審神者]


 同窓会のお知らせが届いてから、卒業後ほぼ連絡のとれていなかった友人と久々にやりとりすることになった。

「やあ、同志よ。久方ぶりに会えるのだ、是非ともオタ話に花を咲かせたい」

 思い出話を重ねつつ、同窓会の後、カラオケオールしようぜという約束をとりつける。

 時間差で、カラオケに友人の職場の部下も二人同席することになったと聞く。

「えっ、私居辛い」
「大丈夫、オタクにも何にも理解ある、基本懐広い人たちだし」

 お互い忙しい身で、今日くらいしか友人とはっちゃけられる日はない。
 まあ、アニソン歌えるならいいかな…?




・同窓会当日

 酔いが回って「ふひひ」友人と肩組みコサックダンスを踊った。

「そう、伝え忘れてたけど部下男なんだよね」
「……遅いわ! いやでもおめでとう? 彼氏?」

 てっきり女オタ仲間だとばかり思っていた。この後のカラオケに緊張して胃がキュッとなった。こちとら前世も合わせて60年ちょい喪女だぞ!

「そういうのじゃないよー、部下部下。ビジネスライクのお付き合い」

 本当かよ……。

 同窓会会場から出ると、ロビーに人だかりがあった。友人があちゃーという顔をしている。

「部下がめちゃイケメンなの忘れてたわ」
「えっイケメンだから人に囲まれてんの? 何そのアニメみたいな状況」

 その人だかりの中心二人は、友人の姿を見つけて手を振っている。目がいいんだなあ。
 その二人をぼうっと眺めていたら、謎の既視感に襲われる。なんだっけ、どこで見たんだっけ……。
 ……刀剣男士やないですか!
 突然暴露させてもらうが、私には所謂“前世の記憶”というものがある。今生は人生二回目なだけあって、平々凡々それなりに要領よく生きていた。

 前世の私を端的に表すならば、“乙女ゲー大好きなオタク喪女”といったところか。
 そんな前世の私が遊んでいた、日本刀を擬人化したイケメンだらけの育成ブラウザゲームが“刀剣乱舞”。友人の部下達は、そのゲームの登場キャラに酷似していた。

「ちょっとお手洗い」
「てらー」

 うぉろろろろ。
 吐いて口ゆすいで手を洗って目頭おさえて頬つねって夢でないことを確認して、もう一度ロビーに向かう。

 どこからどう見ても鶴丸国永と加州清光ですどうもありがとうございました。

 コスプレにしてもクオリティ高過ぎ、というか、まずこの世界には元ネタのゲームが存在してないから。成る程、本人ですね。あははぁ。なんだこれぇ。
 所謂転生トリップってやつか。確かにトリップものは前世から好きだったけどさあ、けどさあ。

「仕事なにしてたっけ」
「公務員よ〜事務寄りの管理職ってとこかな」

 なるほどそういう設定かー。へー、ふーん。……ちょっと、今までの常識とか、諸々が覆されたっていうか、いや、前世の記憶ある時点で普通じゃなかったけど……こんなのきいてないよぉ……。

 モーゼが如く人波を割って、お二人が友人の元までやってきた。えっ、この三人と一緒に行動するとかハードル高過ぎィ! 同窓会だからって、いつもよりお洒落してきたことだけが救いか。




・カラオケ店に向かう道中

「あの、変なこと言って悪いんだけど、鶴丸さんときよみちゅ、清光さんに握手してもらってもいいかな」

 友人に向かって小声で伝えると、友人から二人に何か話してくれたようで。

 眩しい笑みとともに握手して貰えた。
 ひいいい……我が人生に一片の悔いもなし

 うわぁ鶴丸さんおててしろぉい……

 ああ〜初期刀だったんだよぉぉきよみちゅうう〜世界一可愛いよぉぉ

 花の綻ぶ笑顔を零しまくった自信があるわー。私が刀剣男士だったら確実に桜吹雪舞ってた。

 この後めちゃくちゃ歌った。
 刀剣男士と現実にカラオケに行くことになるとは思わなかった(ゲンドウポーズ)
 しぬかとおもった()








「あの人、俺らにじゃなくて、主に俺たちとの握手の許可を求めたんだよね?」
「俺は『五条』と名乗ったし、清光に至っては未だ名乗っていなかった。――主よ、あの御仁は何者だ?」




 ――勘違いの気配を察知――



****


 己が審神者となってからは疎遠になっていた友人と、久々に出会い羽目を外しカラオケで盛り上がった翌日のこと。
 審神者は、久しく戻っていなかった実家で、のんびりと家族との時間を過ごしていた。

 審神者の護衛のため、現世に共に訪れている加州清光と鶴丸国永は、現在己に過保護な兄と父親から尋問じみた質問責めにあっている。年頃の一人娘が連れ帰ってきた異性とあって、審神者がいくら同じ職場で働く部下だと説明しても納得してくれなかった。
 苦労をかけるなと思いつつ、「俺たちに任せて」と、現世に来る前何度もおさらいした設定を踏襲した無難な回答をしていく彼らが頼もしい。私の刀達がこんなにもかっこいい! 親バカならぬ主バカ丸出しで審神者は頬を緩めた。

 ……そういえば、彼女は加州達について詮索しなかった。審神者の職場に関しての問いはあったが、彼らに直接何かを問うことはなかった。
 加州と鶴丸に告げられた、気になる言葉もあった。

 審神者という職、そして、『刀剣男士』については、時の政府の情報操作により、その存在が伏せられている。
 ――案外、あの子も審神者になっていたりして。
 護衛の刀剣男士の姿は側になかったが、目に見えるところにいなかっただけでその懐に短刀を忍ばせていた可能性はある。彼女が“こちら側”の関係者かどうかは、現在問い合わせ中だ。明日には担当を通して、返答がくるだろう。




・ところがどっこい、担当さんを通した政府からのお返事は「その子審神者じゃないで。政府関係者とも違うで。経歴洗って家系も見たけど神職とは無縁の一般人のはずやで」という内容だった。

――ならば彼女は、何者なのだ?
審神者ちゃん、呆然。




・実家で押入れ整理中の審神者ちゃん
手にした罫線ノートは、中学時代に自分が落書き帳にしていたものだ。その時嵌っていた漫画のキャラクターが描かれているのを見て、ああ好きだったなと、昔を懐かしむ。
そういえば、あの友人も絵は描いていたっけなと回顧して、段ボールの中をさぐれば、当時の彼女が落書き帳にしていたノートが一冊出てきた。表紙に振られたナンバーは6。審神者は彼女の描く絵が好きで、丁度ノートが使い終わったというのを、その時誕生日が近かったのに託けてねだったのだった。友人は、誕生日プレゼントがこんなものでいいのかとノートを渡すことを随分渋っていたが。
貰っておいて正解だったと、ノートをめくりながら審神者はニヤつく。彼女をからかういい材料になりそうだ。そうして何気なく開いたページに描かれていたものに、審神者は凍りついた。

「うそ……」

そこに描かれていたのは、『刀剣男士』――つい先日本霊と時の政府の交渉がまとまり実装されたものの、突如現れた第三勢力…『検非違使』によりその分霊の多くが囚われとなったという『浦島虎徹』の絵だった。
政府からの伝達に添付されていた写真を、イラストにすれば丁度このようになるだろう、そのデザイン。このノートを彼女から受け取った当時の審神者は、これを浦島太郎を下敷きにして創作した、彼女のオリジナルキャラクターだと思っていた。

ポケットからデバイスを取り出し、浦島虎徹の写真を絵と比べ見る。肩のあたりに描かれた六角形を重ねた紋は、写真の浦島虎徹の装飾と一致する。肩に乗った亀の絵の横にはご丁寧に「かめきち」と記されている。……浦島の飼っている、亀の名だ。
審神者でさえ、時の政府から発表されるまで彼の容姿を知らなかったのだ。描けるはずがない。はずが、ないのに。

彼女に霊感の類がないことは、審神者もよく知っている。夏の肝試しで訪れた霊のさまよう墓場でも、ハイキングで訪れた神域にも近いパワースポットでも、彼女は霊障を受けている審神者を横目に、何事もないというようにヘラヘラ笑っていた。
彼女が一般家庭の出であるという情報は、時の政府のお墨付き。知り得るはずがない、知り得るはずがないのだ。

何故、彼女が知り得たのか。知った事実の歴史修正、検非違使との関与――嫌な想像が働いてしまう。


震える指で、ノートのページをめくる。描かれているのは、軍服のような詰襟を着て、刀を提げた、白髪ボブの男性。添えられている文字は――髭切。
まさか、いやでも、そんな。髭切というのは、歴史上有名な日本刀だ。その来歴により何度か名を変えている、源氏の宝刀。まだ、実装すら噂になっていない、刀剣。


程なくして審神者の許に戻った加州と鶴丸は、顔を真っ青にして放心している彼女を見つけることとなった。




・担当さんに相談
髭切について、その容姿とともに上に問い合わせたところ、本霊に打診中の刀剣男士だと判明したらしい。何処から情報が漏れたのかと電話口に詰問され、涙ながらに分からないことを告げる。自分と気が合い、青春を共にした友人。そんな彼女に裏があるなど、審神者は疑いたくはなかった。

この後、調査が進んで、検非違使は興りが分からない・自然発生みたいなところがあるから、と歴史修正主義者の方向で主人公に疑いがかかる。




・友人に映画に誘われたぜイェーイ
そんなシリアスなことになっているとは知らない主人公。友人に、映画観に行こうよって誘われ、一も二もなく了承。

審神者って、そうしょっちゅう現世に戻ってこられるものなんだろうか? 首をかしげながらも、友人とのお出かけに私はるんるん気分だった。
当日になって、また部下が同行することになったと聞かされる。あーね、刀剣男士ね。おっけーおっけー。護衛お疲れ様です。

友人が連れてきたのは、一期一振だった。

「わぁい部下さんまたイケメンだぁ」(震え声)

アアァァァ……ロイヤル…ロイヤルスウィーティー……。正統派王子様キャラの波動を感じる。なんだろう、正道のイケメンすぎて直視できない。目が潰れそう。
これを見慣れている、これレベルのイケメン達に囲まれ慣れた友人って、審神者って存在は凄いわ…。

一期一振は、粟田一期と名乗った。そこ、粟田口じゃないんだ。
名乗る姿さえ眩しくて、挙動不審になってしまう。彼を前にすると、生きてて申し訳ない気分になる。自分の存在に自信がなくなるとでもいうか。ロイヤルってすごい。それしか出てこない。もれなく語彙も死ぬ。

映画はというと、主人公の女の子がループ時空の中で、幼馴染の男の子の死んでしまう未来を変えようとする話だった。元ネタはアクション&ノベルのゲーム。自分も買って遊んでいたから、そのストーリーは知っていた。
映画も前々から気になってはいたものの、原作のキャラ絵はコミックタッチなのに対して、映画は実写だったので、観るかどうか迷っていた。実際観てみれば、原作イメージが壊されるかもという私の心配は杞憂で、むしろその再現度に舌を巻くこととなった。久々に当たりの実写化映画を引いた気がする。友人の誘いに感謝だ。

映画を観終えて、映画館近くの落ち着いた雰囲気の喫茶店に入る。
一期は苺の乗ったパンケーキを注文していた。共食いかな? ……なにこれツッコミ待ちなの?
私は抹茶のシフォンケーキ、友人はティラミス。飲み物は全員紅茶をつけて、ヘーイ提督ゥ、ティータイムの時間だヨーッ!
もしゃもしゃうまうましていたら、紅茶を口にしていた友人が、カップを机において、神妙な顔つきで私に尋ねた。

「歴史を変えることどう思う?」

えっ。

「過去の先に未来の私達がいるわけだから、過去を変えることは今の私達を否定することになっちゃうんじゃないの」

何処かの薙刀さんの回想台詞を思い出しながら回答する。え? なにこの質問。友人や、まさか審神者業から歴史修正主義者に転向する気なんじゃないだろうな?
友人が悪の道に入るかどうか迷っているんじゃないかと心配になってきた私は、ドキドキしながら、必死に説得の言葉を紡いだ。私の言葉を一通り聞いたところで、友人が安心したように笑う。
あれ、どういうこっちゃ。でも悩みの種はなくなったように晴れやかな顔してる。説得されてくれたってことでいいのかな?
パンケーキを食べ切った一期は、手にしていたナイフをそっと皿に置いた。

「よかった、貴女を斬らずに済みそうだ」

えっ。
……えっ?







この後、出来心から大阪城地下に踏み込み、空間グニャアしてよく分からないことになっている方の大阪城地下に行ってしまったり、
そこで運良く保護されるも、保護先の行動で要らぬ疑いをかけられたり、
度重なる調査と主人公への質疑応答の結果、
主人公が前世審神者だった(嘘じゃないけど君たちが思ってる審神者と違うよ勘違いだよそれ!状態)ことが明らかになったりするのかもしれない。


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