末摘花は昏れの愛
※ 末摘花成り代わり。


 ――私、女子高生でしたわ。

 いのち短し、とは本当によくいったもので、恋のひとつも知らぬうち、私は死にました。
 身体の抵抗力が弱るという、慢性の病気だったように思います。
 人間不信で死にたいとばかり思っていたくせに、このまま死ぬにはあまりに己が惨めすぎると悔しくて仕方なくて死ねなかった私が、やっと、本当にやっと人を信じることを覚えて、世の中割と捨てたものじゃないと、苦みもしょっぱさも含めて生きることが楽しいと思えるようになった、そんな時でした。

 生まれ変わった私は、れっきとした皇族の血を引く娘のようで、世話をされることは当たり前、人を使う側の人間として、蝶よ花よと育てられました。私の世界は狭く、邸というこの箱庭から、本当にただの一歩も外に出たことはありません。箱入り娘とは、私のような人間を指すのでしょう。

 ぱっちりとした瞳に高い鼻、床まで届く艶ある黒髪に、白粉要らずの白い肌。それが今の私です。そう、この容姿を驕って、これならば恋の一つや二つ、いやそれどころかモテモテ逆ハーレム形成も夢じゃないと、とても調子のいいことを考えていたのです。私は勘違いしていました。自分が、美人であると。


 ――ここ、平安時代でしたわ。

 美醜の感覚・価値観というものは、時代と共に移り変わるもので、私の前世、所謂「現代人」の感覚からすれば美人さんなこの容姿も、ここ平安時代では化け物扱いされてしまうのでした。
 あえて形容するならば、「瞳が爛々として、鼻も長すぎるし、頬はこけて身体は痩せ過ぎと、なんとも美人とは程遠い」とでも言いましょうか。引目が美人秀麗の代名詞のこの時代に、大きな目というのは致命的でした。
 しかし、唯一、この夜を切り取ったような長い長い黒髪だけは、誇れるほどに美しいといえるでしょう。要は、顔さえ隠せば美人なのです。……容姿において顔が一番ウェイトを占めるだろうということから、ご察しくださいまし。

 幸い、平安貴族女性が素顔を晒す機会などそうそうあるものではありません。あるとして、身内や侍従といった限られた者たちに対してですから、陰で叩かれる容姿についての悪口にさえ目をつぶれば気楽なものです。
 この髪を武器に、御簾越しに殿方を誘惑するのも手だとは考えるのですが、例えばその御簾を越えるようなちょめちょめが万が一あろうものなら、確実に期待を裏切る素顔を晒すことになるでしょうから。逃げられてしまうこと間違いなしで、やれたものではないと思うのです。


 さて、再び生まれたその先が、まさかまさかの時間を遡る平安時代でございます。剣と魔法のファンタジー世界でもなく、平安“風”な異世界といった様子でもない、そんな世界は私に夢をみさせてくれませんでした。
 この時代、貴族の女というのは政治の道具でありました。その身分相応の生き方を求められ、外れることは許されなかったのです。

 私は、このまま恋も知らずに、ただこの時代に生まれた女としての義務を果たすためだけに生きるのだと、そう思っていました。

 人生の転機は、思わぬところでやってきました。官僚だった父が亡くなったのです。
 政治の道具という私の役目は、呆気なく無くなりました。何せ使う人間がいないのです。使われない道具に価値などありましょうか。
 父の収入がなくなり、私の後見人もいなかったことから、使用人達は邸を離れていきました。その時になって初めて、私は何ひとつと持っていないのだと気付きました。

 父の遺した琴は、古いものとはいえ、ものとしてはそれなりに価値があったようです。埃が被るのも勿体なくて、私は日々、その琴を鳴らしていました。
 その頃に、私はあの人と出会ったのです。



一度は源氏に恋するけれど、好色で相手取っ替え引っ替えしてるのが受けつけなくて、好きなのは自分ばかりな状態に疲れてしまって、そのうち想いも覚めてしまった。

時間差で、相手が光源氏で自分が末摘花ポジションだと自覚。頭を抱える。

現代人と美醜観が違うから色々と報われず、
どこか外れた調子を面白がられるギャグ要員にされて、笑い者にされて、惨めでならない。ゆるすまじ。ゆるすまじ光源氏。

紫の上に幸せになってほしいがために、源氏に度々働きかける。

おうこらさっさと須磨行けやおうおう。

きっと良いのは、若紫が誘拐されず兵部卿宮のバックボーン得た状態で源氏の正妻におさまる&子供に恵まれる展開だと考えるも、実現無理だろこれ、と案没。やれる範囲でささやかながら気を配る。

「若紫は私の母親になってくれるかもしれない人だ」とか何とか。シャアかな? 源氏は、母親のような、己を許し認めてくれる存在を求めているという解釈。
藤壷への執着っぷりにドン引き。紫の上に関して、藤壷に似ているから好きなの? 紫の上として好きなの? と源氏の想いに疑問を抱いている。

想いが冷めて以降は、好いてたことは黒歴史化。心の内では源氏に喧嘩腰。


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