腕力ですべてを解決する月
※ if。月の中身が別人注意。


僕の名前は夜神月。ごく普通の男子高校生。強いて違うところをあげるとすれば、ちょっと力がありすぎるとこかナ。

そんな僕は校庭に落ちていた黒いノートを拾った。それが、物語の始まりとも知らずに。


デスノート 〜腕力で全てを解決しようとする月〜


【1】ノートを拾いました。

「DEATH NOTE? 訳せば"死注"か」

携帯でさっとエキサイティンして翻訳した月は、訳された語の意がぶっちゃけよく分からずに首をひねっていた。むしろ、どうしてこんな訳になったのか不思議だった。普通に『死のノート』ではいけないのだろうか。死注。謎だ。

パラとノートを開いて、書かれた文字に目を走らせる。

「『これは死神の手帳です』」

書かれている内容に、月はぷっと吹き出した。『HOW TO USE』…使い方は全て英語で書かれているらしい。

「『このノートに名前を書かれた者は死ぬ』か。…物騒だな」

最初に目に入った一文の内容に、月は顔を顰めた。不幸の手紙よろしく、どうして皆こうもくだらないものが好きなんだろう。一つ息を吐いてから、月は鞄にノートをいれた。




【2】夕食はシチューでした。

夕食の後、月は自室で今日拾ったノートの中身を読んでいた。

「ノート一つで、死因を選んで殺す事ができるってわけか…」

エキサイトに翻訳しながら、説明書きを見る。思っていた以上に作り込まれていたから驚きだ。半分ほど読んだところで、一息ついてノートを閉じた。
これほどのこだわり設定盛られたノートだ。はじめは燃やすつもりであったが、ここまで見てしまっては流石に良心が疼いた。元の持ち主も探しているに違いない。

ノートが落ちていたのは校庭、となればこのノートの持ち主は同じ学校の生徒とみるべきだろう。職員室にでも届けるか、という思考は、このノートの内容で止めた。

あり得ないと一笑してしまうような設定。このノートの持ち主だってそれは分かっているはずだ。だが、こうして作られている。それは、このノートの持ち主の願望の表れではないかと思ったのだ。他でもない、名を書けば人を殺せるノートを、このノートの持ち主は欲したのだ、と。
なにせ、ノートはあまりに凝られすぎていた。悪戯や遊びで作るには精巧すぎたのだ。このノートに真実味を付加することに、執念でもあるかのように。

「殺したい人間でもいるんだろうか」

そのような状況に陥るのは、どんな時か。事実までは推測できないが、間違いなく厄介な状況だとは理解できる。そんな状況で、このノートを落し物として届けることは、持ち主が学校でからかわれるネタを提供するだけだ。
結局ノートは鞄に仕舞い、持ち主を独自に探すという方法をとることにした。




【3】塾

この間の模試の結果が出ていた。進学校志望者ばかりのこの塾では、400点じゃ平均に届かない。成績不良者向けの追加授業の希望を月が書き込んでいると、塾講師が月の模試の結果を覗いてきた。その顔色が、同情に変わる。

「5教科中4教科満点だってのに、合計点数400点とは、またシャーペンでも折ったのか」
「いえ、折れたのは机で」

こう、ぱっきりと、と板の中ほどで真っ二つになるような動作をパントマイムする月に、塾講師は頬を引きつらせた。

「……それは、災難だったな」
「ははは、こればっかりは昔からどうにもならなくて」

力をそういれたつもりはなかったのだが、どこか気合いが入ってしまっていたのだろう。腕を乗せた途端、回答用紙ごと真っ二つだったのだから、一種のギャグ漫画じみている。




【4】渋井丸拓郎

手元にはノートがあった。名前の漢字への変換候補を幾パターン出さねばならないか月は考え、やがて結論を出した。

「殴った方が早い」

言ったがすぐに月はコンビニを飛び出す。月の拳が拓郎さんのバイクに決まる。ワザマエ! バイクは月の拳で爆発四散! 絡まれていた女性は助け出されたのだった。




【5】邂逅

「待ってたよ、リューク。このノート、お前のなんだろう? もうなくすなよ」

第一部・完




ノートを使わないで、圧倒的な物理で物事を解決するというギャグ。
ライト級(プロレス)とかも考えてたけど、そんなレベルじゃなくチートじみたパワーしてる。
ギャグ時空にいる。ついでに脳筋じみてる。きれいな月。むしろ誰だこいつ。

2014年頃から温めていたネタだったのに、某メルンの六法全書と被ったがために、結局仕上げるのを諦めてしまった話。





以下、ボケ倒すだけの月。それとネタ。

【6】脳筋だと思われているけれど

「お前…頭を使えたのか…」

つらつらと、その口から推理を紡ぐ息子に総一郎は呆然として、そんなことを述べた。

「僕はいつだって、あらゆることを考えた結果の最良を選んでいるよ、父さん」
「その選ばれた解決方法が、よりにもよって腕力にものをいわせて殴るということなのが父さんは心配だよ」


【7】ネットのニュースサイトをみながら

「キラか。物騒だな」
月はコンソメのポテチをむしゃむしゃと貪った。気楽なものである。


【8】ご注文は

「わたしはL(エル)です」
「僕もポテトを頼む時は絶対Lサイズにするんだ」


【9】二周目のLと

「ノートを拾いませんでしたか?」
「君のノートだったのか?」
返すよ、と月に差し出されたのは黒いノート。表紙には「DEATHNOTE」の文字。
あっさりと手渡された上に、いじめか何かの被害者だと思われて、相談に乗るよと優しく言われてしまった。
おかしい。夜神月はキラではなかったのか?
彼の手渡してきたノートには、キラに殺された人間の名前どころか、使われた形跡すら残っていなかった。


【10】これは誰だ

夜神月と接触して、分かったことがある。彼はLの知る、かつてキラだった月とは別の人間であると。
同じとするには、あまりに相違点がありすぎた。

「キラが正義の味方かどうかは、僕にはよく分からない。単に気に入らない人間を殺しているのとは違うのか?」

キラに関して、彼はこうコメントしたことがあった。
キラをただの犯罪者同然に貶める言葉だ。かつての彼からは、出てくるとも思えない言葉である。
その上で彼は、「気に入らないものを排除したいと思うのは、おかしなことなのか?」と首を傾げていた。一種の開き直りのような言葉であり、頷けるところのある言葉でもあった。

だからといって、排除することが正しいとも言わない。ただ、死んだ人間は仕方がなかったとでもいうような、そんなシビアな価値観を、今の夜神月という人間は持っているようだった。
排除されたならばそれまで。排除した側が強く、排除された側が弱かった。
弱肉強食。強さこそ正義とでも言わんばかりだ。

――そう、これではまるで、脳筋である。



【11】月

月は己の脳筋具合を自覚していた。正確には、己が思考行為に怠慢を働いていることを理解して、意図的に「あまり考えなくても円満に済む行動」を選択していた。
自分は馬鹿ではない、それどころか頭が回る人間だと、所謂天才とも呼ばれる頭脳を持ち合わせていることを、月は理解していた。

物事を理解することは、何も良いことばかりではない。綺麗な建前には醜い本音が透けて見え、世の中は虚構が価値を叫ぶ。慢心と平和ボケが腐りきった世界の腐敗に更に拍車をかけ、嘆きが消えることはない。誠実さが報われぬ一方で、汚さが得をさせる世界の機構。
――気が、狂いそうになる。その根本から全てを壊して、作り直してしまいたい。考えれば考えるほどに、受け入れられない、納得できない現実が、突きつけられて。

だから月は、考えるのを止めることを覚えた。
それからは早かった。急に、生きることが楽しくなった。世の中の悪いことには、時に目を瞑った。己に都合の悪いことにも目を瞑った。
排除するでなく、拒絶することを選んだ。拒絶して、離れて、交わることがなければ世界は安寧だった。

世界が月のものであったなら、また選択肢は違ったのだろう。
しかし世界は月のものではなく、月もまた、世界に愛着など持っていなかった。

月はとっくに、世界を見限っていた。


【12】家族

だからこそ、月の執着は世界ではなく、人に向いた。その最もたるのが家族であった。
(友人もいるよーぼっちじゃないよー)


【13】負けず嫌い

この力が、腕力が、何なのかは、正直月にも分かっていなかった。これは、月が十分に思考をした上でのことである。
明らかに、物理法則も何もかもを無視した、理不尽を兼ね備えた力なのである。

「理不尽、か」

それは世界とも似ている。理不尽は理不尽でもって覆す、ということか。
とっくに見限った世界に、それでも立ち向かおうとした、自分の諦めの悪さを見るようだった。


【14】力

この力を人間に向けることへの恐怖はある。だが、それよりも、この力を使わないことで、抗えるはずの世の理不尽に流されることを良しとはできなかった。


【15】きらきらライト

世界を「見限った」月が言うことではないかもしれないが、月は世界を、割と捨てたものではないと思っている。
月に拒絶されながら、月を受け入れる世界は、良くも悪くも受け皿が深く広い。

ふと、そんな混沌とした世界を、自分の趣味の色に塗りかえようというキラなる犯罪者のことを思い出す。

「気持ちが悪いな」

いや、キラの気持ちが分からないわけではないのだが。それどころか、己の半身か何かかと思うレベルで共感できて、理解してしまう。
潔癖で、孤高で、矜持高い。あの件がなければ、自分もこうなっていただろうと思うような。自己嫌悪にも似た同族嫌悪を起こしてしまう。
何より嫌なのが、このキラの場合、月と違って、己が天秤に乗った時罪人になることを自覚していないことであった。それどころか、天秤に乗る気すらなさそうだ。他人を量る立場にいると思っている。少し昔の、力に驕っていた、恥ずかしい自分を見ているようで、むず痒い。

月は己が、天秤に乗れば罪人の判を下される類の人間だと思っている。己は除かれるべき、罪深い人間なのだと。

――罪を犯したことのない人間などいるのだろうか。

かつて、この力をもって犯してしまった――第三者が話を聴いたならば事故というのだろう――罪を、目を閉じ思い出す。
……悪意を持って犯すばかりが罪ではない。

許されないことは、恐ろしい。そのことを、月は知っていた。



罪悪感が悪事へのストッパーになる説。

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