「貴方の未練になりたかった」
三好追悼。共同墓地にうん年後に手を合わせに行く系小話

*冬の寒い季節
空気は澄んでいる。死者の眠る地はとても静かで、侵し難い神聖さがあった。
ただ目を閉じて黙祷を捧げれば、どうしてだろうか。特にこれといった神を信仰しているわけでもないのに、敬虔な信徒にでもなったような心地がする。

死は果てしなく遠い。そう、遠すぎた。届かないものに、私だけが囚われている。
鐘の音が鳴る。その音は聞こえない。

墓参りの作法で日本人って明らかになるとかで、そこから現地の人が語り部で話展開したい。

*死に顔
その死に顔を見たとき、唯々、美しいと思った。
はて、この男はこんな顔をしていただろうか。私の前では随分と嫌味な表情ばかり浮かべてくれていたから、この男がこんな顔で死ぬことなんて、欠片と想像したことがなかった。
未練もない、すっきりとした顔で死んだことは、スパイとして立派だと思うと同時に、どうしてもっと生に執着してくれない、と憤りにもにた感情が湧く。

「ああ、私はあの男に、生きていて欲しかったのか」

気付くには遅く、失うには早すぎた。

スパイじゃない誰かの視点。誰だろう。
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