自己愛心中
リドルが視線を感じ、振り返るとそこには、月明かりを受ける一人の少女がいた。緑のネクタイに、さらりと流れる鳶色の髪。翠の瞳は翡翠のような煌めきが混ざる。はっと息をのむほどに美しく、幻想的な雰囲気を纏っていた。
同じ寮の生徒のはずだが、彼女の姿に見覚えはない。リドルは表面上にこやかな笑みを浮かべながら、内心で警戒の姿勢をとった。

「品行方正なリドルくんが、珍しいことですね。こんな夜更けに、禁じられた森で。さて、何の悪巧みをしていたのでしょうか」
「そうだね。もしかすると、今夜僕がここに来たのは君に会うためだったのかもしれない」

もちろんそんなはずはなく、魔法薬の材料を入手するという明確な目的を持って、リドルはここに訪れているわけだが。
彼が作ろうとしている魔法薬は非合法のものであり、それを知られるのは都合が悪い。女子生徒に対してはこうして、自分の美貌を利用し煙に巻いてしまうのが、一番手っ取り早いだろうというのが、その時のリドルの判断だった。
彼女に数歩近づき、親密な距離をとる。彼女の髪に触れようとすれば、彼女はその手を押し退けた。彼女の桃色の唇が、綺麗な弧を描く。

「口止め料にはバタービールを要求します」

リドルは一瞬眉根を寄せるも、すぐに好青年の笑みを被り直した。彼女の言は、バタービールを奢る体でのデートの要求だろう。何とも面倒だったが、面白可笑しく言いふらされるよりはマシだ。
そもそも、消灯時刻も過ぎたこの時間に、禁じられた森に立ち入っているという時点では、彼女も同じく重大な校則違反者なのだ。

「君からの口止め料は、僕に払わなくていいのかい?」

からかいの体をとりつつ、内心毒づきながらリドルが問うと、彼女はぱちりとひとつ瞬きをしてから小さく笑った。

「私には禁じられていない森ですから」

ほら、と彼女が見せるのは、特例許可証と書かれた羊皮紙で、そこには確かに禁じられた森への立ち入りを許可するという内容の記述と校長によるサインがあった。最後に書かれている、##NAME2##・##NAME1##というのは、おそらく彼女の名前だろう。

「それに、もしリドル君が私と森で会ったと話せば、リドル君が森にいたことも明らかになってしまいますからね。それは困るのでしょう?」

わざとらしく首を傾げた彼女は、邪気のない目で告げる。

「私はバタービールが飲めて幸せ、リドル君は品行方正な学生像を守れて幸せ。不幸になる人のいない、私からの素晴らしい提案です」




・デートかと思えば現地集合でバタービールを飲んだら即解散した時のリドル君の気持ちを答えよ
ジンジャーエールで割るのが好きなんです、と言ってバタービールにジンジャーエールを注いだ彼女は、リドルの会話に味気ない相槌を打ちつつ、ちびちび飲んで、それを飲み干した。


・語録
「もしかして、友達がいないのでは……あっ、私はカウントしないでくださいね。なった覚えがないので」

「残念ながら、私の愛情は、誰かのための奉仕であるとか、犠牲を払うであるとか、そういう種類のものではないのです」

「好きなものを好きでいて何が悪いんでしょう?
私の愛は、非常に自分勝手な感情成分でいて、世間一般に言われるようなお綺麗なものでは決してありませんよ」

「例えば私はチキンの香草焼きが好きですが、その好きゆえに食べられてしまう鶏からすればはた迷惑な感情でしょう」
「残酷ですが、鶏は食卓に並ぶ。それが摂理です」

「でも、リドルくんの見せてくれる宿題は私に大変役に立ってくれますので、貴方がなんとなくさみしくなったときには、クリスマスのオーナメントツリーのように、そばに居てあげてもいいですよ」


・スリザリンの継承者(要審議)
「わたしほどスリザリンの気質に合う人間もないでしょう」

「そのことを踏まえると」
「話を聞け」
「もしや、スリザリンの継承者は私――?」
「聞けと言っている」
「私に開けた覚えはないですけどね」

「ちなみに、可能性の高さではリドルくんを疑っています。貴方の色彩は、創設者像として語られるサラザール・スリザリンと似通っていますし、部屋の場所を突き止め、開くことができそうなくらいには、優秀な頭脳をお持ちですから」

変なところで鋭い彼女に、リドルは不覚にもひやりとさせられた。



何かに執着するとか、自分を大事にするタイプの愛もあるよね、という話。あまりお綺麗な愛とは言えないけれど、愛に対して斜に構えているひとには親しみやすそう。
自己犠牲愛は美しいですけれど、誰も幸せになれませんよね、とか言っちゃう、自己愛精神の高いひと。愛を選り好みする贅沢者。実利主義なくせ、その利益の判断基準に自分の好き嫌いまで混ぜちゃう。
決して、相手のために口を噤むとか、秘密の共有してくれているわけじゃないかんじ……。でも口は堅いとわかるような
愛に飢えつつ、愛なんて陳腐だぜ、って言っちゃうような人のそばに置いておきたい人材。
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