帝が出ているソシャゲにはまる

こんなことになるはずでは、と今になってはそう思う。後悔はない。誤算だったという意味だ。
初めは気軽な気持ちだった。青柳先輩が出演している乙女ゲームのアプリの収録を見学させてもらって、演技を見た興奮が覚めやらぬうちにアプリをダウンロードしてみたのだ。この手のソーシャルゲームはあまりのめり込んでやったことはなかったけれど、流れるように進むチュートリアルを終えてメインストーリーが始まると、かっこよくて個性豊かなキャラクター達が次々に出てきてつい時間を忘れてプレイしてしまった。目移りしそうになりながらガチャを引いてみると、キラキラした演出の合間に聞き覚えのある声が流れてきて、私は前のめりになって液晶画面を覗き込んだ。

「あ、青柳先輩のキャラだ……!SSRって、一番レアなのだったっけ?」

美麗なイラストに見とれてしまいながら、はっと気が付くとだいぶ時間が経っていた。ちょうど体力も使い果たしたところだし、回復するまでの間に課題を終わらせてしまおうと私はようやく携帯から手を離した。
それから、ちょこちょことアプリを起動してはストーリーを進めたりキャラクターを強化したり、空いた時間にやろうくらいに考えていたはずがすっかりはまってしまった。だって、青柳先輩のキャラクターがとにかくかっこいいのだ。すぐに口説くようなことを言ってきて女慣れしたキャラクターかと思いきや、押しが強い反面、繊細な部分もあったりする。まんまと引き込まれてしまった。ストーリーを進めるためには、時間が経って体力が回復したままにしておいてはもったいないので、ちょこちょこと消費しなくてはいけない。ソーシャルゲーム恐るべし。いちユーザーとしての気持ちをかみしめつつ、外部の講習を受けたあとに遅めの昼食をとろうとたからハンバーガーに入って注文を待っている間にも私はまたせっせとアプリを構っていた。

(ふう、今日のクエストは終了。……あれ?)

好感度のレベルが上がったからか、ホームに置いている青柳先輩のキャラクターが新しい台詞を喋るようになっていた。今はイヤホンを持っていないので部屋に帰ったら聞こうと思いながら、頭の中で青柳先輩の声を再生しつつ台詞を読む。

「お待たせしました、ご注文のたからセットです」
「う、わっ……!!」

まさに思い浮かべていた声に背後から話しかけられて、私は椅子から飛び上がってしまった。振り返ると、店員の制服を着た青柳先輩がハンバーガーのプレートを片手ににっこりと満面の笑みを浮かべていた。

「そのアプリ、始めてくれたんだな」
「はい、あの、後学のためにですね……!この間見学させていただいたことを、しっかり自分の演技に活かすためにもと思って!」
「特待生はさすが勉強熱心だな。まあ女性向けと男性向けでは色気の出し方も違うだろうが」
「さ、参考にはなりますよ」

携帯を引き寄せると、ホーム画面にいるキャラクターを見て青柳先輩の表情がぱあっと明るくなった。

「おお、SSRが出たのか!すごいな!」
「あ、はい、一番最初に……SSRってやっぱりかなりレアなんですね。何度かガチャ引いてるんですけど、SRしか出なくて」

そう言いながらキャラクターの一覧をスクロールすると、一緒に画面を覗き込んできた青柳先輩がふむと唸った。

「俺のキャラだけずば抜けてレベルが高いな」
「……一番好きなので」

小さな画面を覗き込むのに近い距離にある青柳先輩の顔を見つめ返してそう返事すると、青柳先輩は一瞬かたまったあと、ぱっと身体を起こして距離をとるといつもの笑い方をした。

「カカカ、嬉しいものだな!ちなみに、近々俺がメインのイベントがある予定だから今のうちにレベル上げをやっておいた方が良いぞ」
「そうなんですか!?わかりました!」
「それじゃあな。ごゆっくりお召し上がりくださーい」

店員に戻った青柳先輩が去っていって、私は気合いを入れ直してアプリを再開するのだった。

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