13
郭嘉は謎の玉をおいていった。
林の中、郭嘉が落ちていた場所にあった。多分郭嘉の落し物なんだと思う。
よせばいいのに、鳴はそれを持ち帰って机に飾った。
占い師が持っていそうな謎にでかい玉。しかもなんか色つきの。
何に使うか謎だし、クソ邪魔だし、てゆーかクソ重たくてこないだ足に落としたとき泣いたし。
その時は本当に痛すぎて、こんな謎なモン置いていくならもっと金になりそうなモン置いてけ!!!と誰もいない空間に怒鳴った。
正直、その玉を見るたびに郭嘉を思い出してつらかった。
だから…
「もういい、あった場所に捨ててこよう」
いつもどおり制服に着替えて。郭嘉がいた時は何かと口うるさく言われた化粧も復活して。
スマホとお弁当、そして郭嘉の残した謎の玉をいれたかばんを肩にかけて、いつもよりちょっとだけ早く家を出た。
「あらお嬢様。今日はもう出られるんですか?」
「んー。いってきます」
慌しく見送りにでてくれるかずにひらひらと手を振って、ローファーを履いた。
今日も蒸し暑い。郭嘉の住んでるところは今どんな天気なんだろう。
病気はどうなったんだろう。ご飯はちゃんと食べているのかな。だいぶこっちにいたけど、曹操様って人にクビにされてたりしないかな。有給使ったのかな…。
そんなことを思いながらガサガサ草をかきわけて林の中へ進む。
中心部分までいくと、小さな草が折れていたり土がえぐれていたりして、郭嘉が倒れていた場所がそのまま残っていた。
鳴はそこにゆっくり玉を置く。
…もしかしたら、郭嘉の大切なものかもしれないし。ここに置いておいたら、いつか向こうに送られるかもしれないしね。
鳴は意味なくそこで手を合わせ、ちゃんと郭嘉の元へ戻りますように。と念じた。
「…わっ!光った」
…すると、玉が急に発光した。
その光は微弱で、今は昼だから正確にはわからないけど…おそらく郭嘉がここに落ちていたときと丁度同じくらい。
もしかしたらこのまま光って消えるかも、と鳴はわくわくしながらその様子を見守っていたが、一向に玉が消える気配はない。
「…まだ消えない?時間かかるのかな?」
鳴は足の先で玉をツンと蹴った。するとどういうことだか、鳴の足まで光り出した。
「ゲッ!何ごと!?」
その光は足だけにとどまらず、だんだんと体の中心部分へと進んでいき、しまいには鳴の体全体を覆ってしまった。
光の強さもだんだんと大きくなっていき、直視するのが難しいほど。
鳴はピカピカと発光する自分の腕をどこか他人事のように見ていた。脳みそが出来事についていかない。
「うわ…マジキショ…光ってるよ…」
その光った手で、未だ微弱な光を放っている玉にそっと触れた。
すると玉はカッと一層強く光り、視界のすべてを白く塗った。
「う、わ……っ!!!」
鳴は思わず顔を覆った。フラッシュがきつすぎる。目をギュッと瞑って耐えた。
それからジェットコースターのような、内臓をぐるぐるさせられるような感覚が襲ってくる。頭を何かにグッと掴まれて前後左右に振り回されているようだ。おえ、吐きそ……
急な吐き気に見舞われた鳴は、やがてなにかから吐き出されるように叩き付けられ、謎の感覚から開放される。
まだグルグルする頭を内臓にグッタリしながらゆっくり目を開けると、そこには見たことがない景色が広がっていた。
「え、なに、ここ……」
固い地面から上体を起こして、あたりを見回す。自宅の庭とは全く関連性がないし、いつも見下ろしている街の風景とも違う。
コンビニがない。ビルがない。電柱も無い。マンホールもない。
スーツを着ている人がいない。学校の制服を着ている人がいない。犬の散歩をしている人がいない。
ここは鳴の生きていた時代ではないことは明白だった。
ただひとつ、まるで時代劇のような人々の服装にはなんだか見覚えがある。
やけにながい中華風の裾や袖。色合いもなんだか地味で、歴史の教科書の挿絵を見ているみたい。
なんというかあらゆるところに前時代的なものを感じながら連想する人物といえば、ただ一人。
「郭嘉………」
雰囲気といい、服装といい、郭嘉が始めてうちに来たときの格好を思い出す。
その時の郭嘉はまさしく今この風景と限りなくマッチングしていた。
妙に重たく感じるかばんの中身。
鳴は意を決して、近くを通りかかった女性に声をかけた。
「あのっ、すみません、ここってなんていう場所ですか?」
鳴にいきなり話しかけられた女性は鳴の顔、そして格好を見るとギョッとした表情になって、それからちょっと厄介な顔をしながらも質問に応えてくれた。
「なんだい、あんたみょうちきりんな格好してるね。ここは許昌、かの曹操様の本拠地だよ。そんなことも知らないなんて、あんたどっからきたんだい……」
そう言って女性は、お礼を伝える隙もなく忙しそうに立ち去ってしまった。
郭嘉、許昌、曹操……鳴はあまりの出来事に頭がパンクしそうだった。
なんなんだ、本当に意味がわからない。
ていうかなんでこんな道端に落ちちゃったんだ、私も郭嘉んちの庭とかに落としてくれよとか思ったが、ぐちぐち言ってても仕方ない。
目指す場所はひとつだけ。
「…郭嘉に会えたらまずビンタしたい」
鳴は空を見上げた。空は変わらず、青くて、まぶしい。
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