こころまい
「僕は自分がわからなくなりました」
「わからなくないよ」
「僕は芥川先生が好きです」
「うん」
「でも僕が好きなのは今の先生じゃなくて生前の先生なんです」
「どうしてそうなるんだ」
「だって、転生してしまったら、それはもう先生であって先生じゃないじゃないか」
「僕はここにいる。僕も芥川龍之介だ。辰年辰月辰日辰の刻に生まれた、芥川龍之介だ」
「僕が愛しているのは貴方じゃない」
「違う。僕は僕だろう」
「僕が愛したのは妻子がいて、常に精神を病みながらも小説に情熱を注いでいた貴方だ」
「転生したのがそんなに不満だったのかい」
「それは違います」
「何が違うと言えるんだ」
「貴方が生まれ変わってくださった時、僕は本当に、心の底から嬉しかった」
「ならどうして」
「わからない」
「……」
「貴方を尊敬していると、愛しているのだと胸を張れなくなってしまった」
「……」
「貴方も芥川先生だ。それは事実だ。変わらない真実だ。生まれ変わった芥川先生なんだ」
「……ああ、そうさ、僕は芥川龍之介。君が恋い焦がれていた、新思潮派の小説家」
「なのになんで、なんでなの。苦しくて苦しくて、どうしたらいいのかわからない。……ごめんなさい」
「……謝罪されても、困るよ」

愚か者だと、救いようのない阿呆だと、地獄に落ちるべき馬鹿なのだと、突き落としてくれたらどんなにいいことか。

病的



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