「こうしてちゃんと手を繋いでおいてくれないと、私はどこかに脱走してしまうかもしれないわ。脱走のプロの娘だもの。」
そうシリウスの顔を覗き込む様にして言い、視線が合うと悪戯っぽく笑って見せると、憂いの表情をしていたシリウスがフッと小さく笑う。
「レンはナイトバスに乗った事はあるのか?犬の姿で再会したあの日、レンはハリーだけをバスに乗せていた様だったが…。」
「舌を噛まない様にって噂だけは聞いた事があるわ。」
「ならば、来年は一緒にナイトバスに乗るか。」
それにレンは不満の声を漏らせば、シリウスはきょとんとした顔でレンを見つめるも、あぁ、猛スピードの物は苦手だったな。とシリウスは揶揄う様に口端を上げる。
「違うわ。他人の運転する身の安全が保障できない乗り物が苦手なの。ナイトバスも手荒な運転をしているんでしょう?猛スピードって言ったもの!」
それにシリウスは「自分で乗って試してみないとな?」と小さく笑った。
もう!意地悪なんだから!とレンが拗ねた様子を見せれば、シリウスは優しく頭を撫でてはくれていたが、暫く沈黙が続く。
シリウスに嫌な事を考えさせない為にも話を続けてはいたかったが、シリウスの顔を見上げ視線があった時、シリウスはどこか切なそうな色を見せ、レンはかける言葉が無くなってしまった。
「レンには何か夢はあるか?」
シリウスはクレスメント邸と繋がる扉の前の階段に腰掛け、脚と脚の間にレンを座らせると、軽く抱きしめながら言うシリウスにレンは小さく首を傾げてしまう。
夢?と聞くと、そう、夢だ。と一言。
「夢はないわね。今はヴォルデモートを倒す事しかないわ。これは絶対に成し遂げてやるっていう思いがあるから目標だし。」
「それでは…私達と一緒に暮らす前はどんな夢を持っていた?」
「そうね…マグルの学校に通い始めた頃、ハリーが無事に家に帰るのをこっそり見守る為に公園にいた事があったの。その時に初めてマグルのお家が羨ましいって思ったわ。」
「マグルが?」
「えぇ。魔法で家族がバラバラになる事もないし、遊んでいれば迎えに来てくれるママ…一緒にお買い物に行っては、晩御飯のメニューに一喜一憂するそんな生活。もうあの頃は私はヴォルデモートの娘だって知っていたから、私には決して手に入れる事の出来ない家族の温もりを、来世で手に入れられたらな、ってそんな夢ならあったわ。」
シリウスが抱きしめる腕に力を入れると「でも」と言葉を続けシリウスを見上げるとにっこりと微笑んで見せる。