番外編:シリウスサイド
レンがあんなに号泣したのは久し振りに見た。
あの子が号泣する姿を見る度に、レンの赤い瞳に動揺しては連れていかれたレンを自分が迎えにいった時、愚かなこの父を許して受け止め、必死にその愛情を求めて手を伸ばしたあの赤ん坊の頃のレンを思い出す。
俺が死ぬのか…。
そう思った時だ。
軽い目眩と共に、見覚えのない映像が次々に浮かんで来るのだ。
アクアと口付けし合って互いに杖を握ったその映像が見えた時、全てを悟った。
「アクア…お前という女は…どこまで俺と考える事が同じなんだろうな。」
そうレンが若き自分に逢いに来た日、あの図書室の裏の隠れ家で互いの考えを話し合い、そして1つの答えを出した。
未来を過去の人間に教えた咎人に、未来を変えた咎人にしない為に…そして互いに残された時間が気になりやりたい事をやれないなんて事にならない様に…互いに互いの記憶を修正したのだ。
口付けをし合い、それを合図にして互いが互いに魔法をかける。
だが、出会いは最悪だった私達も性根は同じ…自分の死を確信したその時、遺せる物を遺せる時間を与える為に…記憶が戻るよう、細工をしていたのだ。
クレスメント邸に戻っては、もうこの家もあと何回見られるかも判らない自分の運命に苦笑しつつアクアの部屋や自分が自分の部屋だと言っていたその部屋に入っていく。
あの当時よく見ていたオートバイの雑誌がいくつもあっては小さく笑ってしまった。
だが、机に2つ見覚えのないものがあった。
金色のロケットと、ハリーを抱きかかえたリリーとそれに身を寄せるアクアを中心に、リリーを抱きながら幸せそうに笑うジェームズと、アクアの腰を抱きながらもう片手にはレンを抱いて笑う自分の姿…そして子供達は互いに手を伸ばしあってはニコニコと笑っている家族写真が写真たてに入れられていた。
「どうして此処に?確か…暖炉の上に飾ってあったはずだが…」
自分の机の上に置いた記憶がない。…アクアの仕業か…?そう思いその写真を手に取ると心の中に懐かしさが蘇る。
レンの額には犬の絵を描いた絆創膏。
ハリーの誕生日に箒をプレゼントするのと同時に、いつかは一緒に飛び回って欲しいとレンにも玩具の箒を買ったのだ。
誕生日でもないのに!とアクアはあまり甘やかしたらダメよと自分の我儘を棚に上げて言っていたが…その日以降、レンはその箒を使う事はなかった。
というのも、レンはそれに乗って少し飛んだ瞬間、見事な顔面スライディングを決めたのだ。
きょとんとしたレンの顔を見ては心配した気持ちが吹っ飛び夫婦揃って声を上げて笑ってしまい、レンは涙を溜めて私達の事を睨み機嫌を損ねたが、黒い犬の絵を描いた絆創膏でやっと機嫌を直してくれたのだ。