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ナルシッサはレンの近くまでくれば大きく頭を下げた。
「姫君…本来ならば私の顔も見たくないでしょう。…私共は多くの罪を犯しましたもの…どんなに詫びても姫君には許していただけない事も…理解しておりますわ。…姫君の気がお済みになるまでどの様な罰も受け続ける所存です。ですが…ですが姫君…私の願いをひとつだけ聞き入れてはくださいませんか…。」
「随分と都合の良い話ね、ナルシッサ。貴女の夫は私から随分のものを奪ったわ。母に伯父に伯母にシャル…確かに私は幼い頃から貴方達のお世話にはなりました。それに対しては恩はあります。ですが、許す事は出来ない。」
「判っておりますわ、姫君。どんなに詫びても償いきれない事だという事は…ですが、ドラコは、ドラコだけは…」
その言葉にレンの瞳が若干大きくなれば「ドラコに何があったの?」と声を掛ける。
「何が起こったかは言えません。ですが、もしかしたらあの子の命に関わる事なのです。お願いです姫君。もしホグワーツであの子の命に危険が及んだその時は…あの子を守ってくださいませんか?そのお力をドラコの為に使ってはくださいませんか…?これが様々の者を裏切る行為という事は理解しております。けれどたった1人の息子を死なせたくはないのです。」
「それが罠ではないという確証はどこにもない。」
レンがそう言えばナルシッサは身を震わせて意を決した様にまっすぐにレンを見つめる。
「姫君、今晩までに結界を貼り直して下さいまし。その姫君の優しさにつけ込み、我が君は貴女を襲い連れ戻す策を実行するおつもりです。許可せざる者は動物であろうと人であろうとこの森にも侵入できぬ様…この情報と引き換えに罠では決してないと信じてください。」
真っ直ぐにそう言い続けるナルシッサ。
「それが…母の愛ってものなのね。…私もそんな風に愛されていたら…きっと今とは違った道を選んでいたかもしれません。」
レンは大きく息を吐けば、杖をしまい、2人の杖をナルシッサに押しつける様にして返す。
「ドラコは…私にとっても大切な幼馴染です。私が彼の危険を察知すれば、私は頼まれずともその命を守るでしょう。私には彼を見捨てる術を持たない。…それに、結界は貼り直しません。貴女がバラしたと、そう勘付かれてしまえば貴女達一家の命が危うくなります。…これが貴女に対する私ができる精一杯の恩返しです。どうか、お早くお帰りください。」
レンはナルシッサに近付いたまま彼女のみに聞こえる様小さく言えば、その青い瞳をナルシッサに向けて口元だけで笑んで見せる。
「いつか…全てが終わりました時、私が生きていられたら…この恩返しをさせてください。お母上のご遺体を…探し、返上すると我が命に賭けて誓いますわ。誓いの義をしてもこのご恩を…」
「結構ですよ、ナルシッサ。その様な事をして頂かなくとも…貴女の瞳も魔力もは嘘を吐いていない事を証明しています。それだけで十分。恩返しをと言うのならドラコの為にも長生きをしてあげてください。」
でも!と涙を流しながらいうナルシッサにレンはハンカチを握らせ、そのままその場を立ち去った。


(P.22/全P.208)
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