「お母さん…?」
その姿にレンは身動きひとつとれずにいれば、だんだんと彼女の表情が一転し怒りに満ちた形相で、この世のものとは思えない声をあげた。
これが…壊れてしまった母の…記憶の奥底にある母の姿なのだろうか…?
自分は本当に、望まれて生まれてきた訳でなく、愛されてもいなかったんだ…。
レンは耳を塞いでその場に蹲り「ごめんなさい」と何度も何度も呟いて体を震わせていた。
そして彼女の手がレンの首へ伸びれば、そのままギリギリと首を絞めていく。
これは幻…幻なのだ…そう自分に言い聞かせ、震える手で「リディクラス」と呪文を唱えた瞬間、目の前を緑の閃光で溢れ、彼女の体は腐ったかのようにボロボロと一部を残して崩れ落ち骨だけになってもレンに向かい恨みの篭った視線で首を絞め続ける。
私が…こうしてしまったのだろうか…母を、この様な姿に…そう思うとなぜか涙が止まらなかった。
レンは思うように声が出なかったが「ごめんなさい」と無意識に謝り続けてしまう。
謝っても自分の命を奪うきっかけのひとつだった自分の事を、そう簡単に許してはくれないだろう事は判っていたが、こう謝るしかレンには出来なかったのだ。
この部屋に入ってから数分経過すればリーマスがレンの様子を見る為にトランクの中の様子を窺う。
だが状況は予想に反して悪いもので慌ててレンを助け、抱えると外へと連れ出す。
怯えきった子供の様にリーマスにしがみ付いて震え、呟く様に謝り続ける彼女の姿に、彼女を待っていたハリー達は驚きを隠せなかったようだ。
「もう大丈夫…あれは幻なんだ。安心して大丈夫だから…」
リーマスは辛そうな表情を浮かべながらも優しくレンに語り掛けて背中を撫で続ける。
「ごめ、っ…ごめんなさい…私が、私が産まれてきたから…全部、壊れて…」
ガタガタと震えながらそう呟き続ける彼女に、リーマスは彼女の顔を自分の方に向けさせ、大きな声で彼女の名を呼んだ。
「…リーマス…?」
「そうだ、私だ。判るね?大丈夫…もう大丈夫だから。」
そう優しく言うリーマスにレンは震える体で無理矢理立ち上がり、ボロボロと溢れる涙を袖口で拭いながらリーマスに詫びた。
「ごめんなさい…大丈夫。」
その言葉にリーマスはホッと胸を撫で下ろす。
「医務室で休んできなさい、顔色が良くない。」
レンはハリーに支えられる様にして、その場を去った。
ロンとハーマイオニーもレンを心配していたが、ロンは「ハーマイオニーだって、マクゴナガル先生が全部の授業落第だ!って大騒ぎしたんだぜ?」と、レンを元気付けたが、それからはロンとハーマイオニーが先頭を歩きながら何やら話をしている。
「大丈夫?」
「うん…」
レンが情けなさそうに言えば、ハリーはなんて言えば良いか判らない様子で、レンは出来る限り平気に見えるように微笑んだ。