「やめろぉぉぉぉっやめてくれ…頼む…」
シリウスは呻き、その声にレンは意を決し人に戻った。
シリウスを片手で抱き締め杖を吸魂鬼に向ける。
呪文は知っている…幸せな事で心を満たしそして…唱えるんだ。今やらなかったらシリウスは死んでしまう。
レンは心の中に、シリウスが自分の事を娘だと言ってくれたこと…リーマスと一緒に暮らして幸せだった日々…それらを思い浮かべる。
「エクスペクト・パトローナム!」
杖先から銀色の靄のようなものが少しだけ現れれるも、シリウスは全身から力が抜け動かなくなってしまうのと同時に、銀色のそれも消えてしまう。
「シリウス、シリウス…!しっかりして、死んでは駄目!」
死人のように青い顔に必死に声をかけるもそれも届きはしなかった…。
レンの幸福と思えるものもドンドンと吸魂鬼に吸い取られていき、心の中をまるで氷が埋め尽くしていくかのような冷たさや絶望感に襲われるが、此処で諦めてしまったら駄目だ…シリウスが死んでしまう…そう強く思い自分を奮い立たせる。
いつの間にかに合流したのだろう、ハーマイオニーとハリーが一生懸命に呪文を唱えている声が聞こえる…私が此処で諦めたらいけないんだ。
「お母さん…お願い…シリウスを死なせないで…力を貸して…シリウスを助けて。」
レンはそう小さく呟き呪文を唱える。
するとそれは何かの動物のような形になるが、ハリーが意識を手放すと同時にレンの意識も遠退いてしまい杖を落とせば、姿を現したそれはすぅと消えていく。
レンは無意識のうちにシリウスに覆い被さるように抱き締め、自分がシリウスの盾となった。
吸魂鬼のキスなんか執行させてたまるものか…そういった意地がレンをそうさせたのかもしれない。
1体の吸魂鬼がレンをじっくりと見ながら、腐乱している両手を上げてフードを脱いだ。
目がある筈のところには虚ろな眼窩と、のっぺりとしたそれを覆っている灰色の薄いかさぶた上の皮膚があるだけだった。
口がある場所にがっぽりと空いた形のない穴が、死に際の息のようにザーザーと空気を吸い込んでいる。
これが吸魂鬼のキスか…レンは冷静にもそう思っている自分がいた事に気付けば苦笑を浮かべる。