混乱で騒いでいる、コンパートメントの中をあまり気にもせずに、レンはリーマスの耳に口を寄せる。
「リーマス、起きて?何かが汽車に乗り込んできたみたいなの…」
そうリーマスに聞こえるような声で囁くと、レンは手の平に光を出しそれで辺りを照らす。
「さ、皆静かに。動かないで」
リーマスも起きたようでレンが明かりを灯すのと同時にそう皆に声をかける。
ネビルもジニーも開いている場所に座りその様子を緊張した面持ちで見ていた。
リーマスの口調は穏やかだったが、その場に立ち上がり瞳は鋭くとても警戒している様だった。
黒いマントに身を包んだものがすぅーっと流れるようにレンたちのコンパートメントの前に来ると、水中で腐敗したような死骸の手が扉を掴み、ゆっくりと開いていく。
それが、コンパートメントの中に姿を現した時、ゾッっとするような冷気が全員を襲った。
吸魂鬼はハリーの方をジッと見ている様で、すると次第にハリーの瞳が虚ろになり座席から落ちて痙攣し始めた。
レンは慌ててハリーの体を抱きかかえ吸魂鬼を睨む。
すると吸魂鬼はレンの方に視線をやれば、冷気が体の中に入り息すら出来なくなるような感覚に襲われる。
遠くの方でヴォルデモートの冷たい高笑いにシャルの泣き叫ぶ声が聞こえる。
皆、皆が自分を残して次々に倒れ死んでしまうんじゃないか…そう思えるほど、心が恐怖で満たされていく。
「シリウス・ブラックをマントの下に匿っている者は誰もいない。去れ」
リーマスはハリーを跨ぎ、レンたちの前に立つとそう言い、目の前が銀色のモノで優しく包まれたような気がした。
するとそこから吸魂鬼が逃げるように立ち去り、ネビルは硬直していたし、ジニーは隅の方で膝を抱えて震えていた。
ロンとハーマイオニーに手伝ってもらい、ハリーを座席の上に寝かせると、レンはハリーの枕に自分の膝を提供した。
体が小さく震える。自然と瞳から涙が溢れていた。